「自主防災マップ」で地域力向上

地域防災力を高める手段として注目されている「自主防災マップ」。愛知県豊田市はマップ作成への補助金制度を創設するなど、住民の活動を後押しし、約220の自主防災会がマップ作成を実施。コミュニティ活性化にも繋がっている。

「自主防災マップ」作成支援

豊田市役所社会部市民安全室 防災対策課 課長 村上 光彦氏

自主防災マップとは、ハザードマップなどの情報を活用しながら、地域住民が主体となり、地域の実状に応じて必要な防災情報を記載して作る地図である。東日本大震災で自助・共助の重要性が明らかになり、地域防災力を高める手段として注目され、自治体でも市民の自主防災マップ作成を支援する動きが少しずつ広まってきている。

中でも、大きな成果を挙げている自治体が愛知県豊田市だ。自主防災マップ作成への補助金制度の創設や普及啓発活動によって、市内328の自主防災会のうち約220が自主防災マップの作成を完了している。

作る過程でコミュニティが活性化

豊田市は2005年に大規模な市町村合併があり、山間部も含む広域自治体となった。過去には、矢作川の氾濫などの洪水被害を受けていることや、南海トラフ地震や豪雨に伴う土砂崩れや河川氾濫といった災害リスクを注視し、市はハザードマップを全戸配布しているが、市民の防災意識を高めるために自主防災マップの可能性に注目した。

豊田市防災対策課の村上光彦課長は、自主防災マップ作成支援の狙いを「市民の防災意識向上とコミュニティの活性化」と話す。
「自主防災マップは、住民が多数参加して、まち歩きを行い、危険箇所や過去の災害の教訓、地域特有の課題を議論しながら作成していきます。この過程こそが最も重要です。作成過程における対話の中から隣近所の繋がりが生まれてコミュニティが活性化し、情報共有によって防災力が高まっていきます」

豊田市の防災に対する姿勢が現れている施策が、2012年にスタートした、自主防災会や自治区の自主防災マップ作成に補助金を交付する『防災マップ共働作成支援事業補助金交付制度』だ。作成に伴う講師費用とマップ印刷費用を補助する仕組み(講師費用は上限10万円、印刷費用は同35万円+世帯数×300円)で、「制作費用の100%を補助する自治体は全国でも非常に珍しいはず」と言う。

自主防災マップの制作には、地図メーカーのゼンリンが全面的に協力している。同社の防災関連資格を持つ営業所社員が、平日の夜や休日に各地の自主防災会を訪問し、マップ作成の重要性を説明するほか、地図作りについての合意形成の手助けをするファシリテーター兼講師役を担う。また、マップ作りのために実施する街歩きなどに住宅地図を提供した。

「2015年度はゼンリンの協力で、高齢者が多い山間部に対して重点的に作成支援を行いました。このほか、328自主防災会が一堂に会する総会などで、ゼンリン担当者とも協力しながら防災マップの普及啓発・講習を行っています。民間との連携を積極的に行ったことが、マップが普及した要因の一つです」(村上氏)

マップ作成のポイントは、子供会や敬老会、区長会など、できるだけ多くの組織が参画することだと、豊田市防災対策課の梅村光宏主幹は指摘する。
「例えば子どもは大人と目線が違うため、普通では気づかない危険を見ていたりします。様々な視野から地域を分析し、地図に盛り込むことが大切です。自分たちで作成したマップは、行政が配布するものよりも間違いなく大切にされるでしょう」

自主防災マップには、避難場所・消火栓・防火水槽・過去の防災情報・ガソリンスタンド・狭い道・要援護者施設・ため池・防災資機材庫などを掲載することが多い。定期的に見直し・更新を行い、最新の防災情報を共有することも重要である。マップは各自治会で防災訓練に役立てられているほか、防犯や交通に関する情報も盛り込むなど、地域の総合的な『安全』向上のツールとして活用される例も多い。

作る過程でコミュニティが活性化

防災を「明るく楽しく」啓発

補助制度だけでなく、豊田市では市民への防災の啓発活動にも工夫を凝らしている。2014年度からスタートした「とよた防災フェスタ」はその代表例と言える。2015年度は、1日で2万2000人もの集客を記録。防災訓練だけでなく、人気アニメキャラクターやアイドルを招いた子ども向けイベント、防災に関する仕事が体験できるゾーン、緊急車両やパトカーの展示を行ったほか、78の企業・団体が出展して防災機器の体験会などを提供した。

「行政の防災イベントはどうしても堅苦しいものになりがちですが、私たちは防災を『明るく楽しい』イメージに変えていきたい。そのためには自然に防災を学べる仕掛けづくりが大切だと考え、防災フェスタを企画しました」(梅村氏)。

会場に来る動機がアイドルであっても、会場で防災に触れて、理解を深めるという結果こそが大切なのだ。
「お祭りなどの地域行事の中にも防災の要素を入れていくことも重要です。ある地区では運動会でバケツリレーの訓練を行っていますが、こうした事例を増やしていきたいですね」

自主防災マップ作成で、災害に強いまちづくり

豊田市は将来的に、328すべての自主防災会での自主防災マップ作成を実現したいという。
「マップを持たない防災会が『作りたい』と自主的に言ってくださるよう、意識改革や支援を続けていきます」(村上氏)

具体的には、2016年度は自主防災会を後押しするために、市全域を対象とした『地域防災カルテ』システムの構築に取り組んでいる。防災カルテは、対象地区の地形や地質、人口や建物数の規模、防災関連施設、災害の危険度や危険箇所、被害予想などをまとめたもの。水害、土砂災害、地震による建物倒壊や火災などのリスクを可視化することができ、地区防災マップ作成時の参考やベースになる。
豊田市は愛知工業大学と連携し、地域防災カルテを中学校区ごとに細かく作成、GIS(地理情報システム)としてインターネット上で2017年度に公開し、自主防災会が自由にダウンロードや利活用できるようにする予定だ。

「GISシステムだけでは不十分だと思いますので、土砂災害地域・河川地域・地震の揺れが強い地域の3パターンで、地域防災カルテの活用マニュアルも作成し、地区防災マップづくりを支援していきます。カルテやマップを活用した自主防災会の訓練も支援を行っていきたいです」という。もちろん、2017年度も『防災マップ共働作成支援事業補助金交付制度』を継続する方針だ。

地区防災マップ作成支援のほか、豊田市では2017年度に、災害時における受援計画の策定や、防災ラジオで受信が可能な「280MHzデジタル同報無線システム」の基盤整備、避難所の停電対策などに取り組み、防災・減災を進めていく。
地域防災力の向上のために何をすれば良いか、頭を悩ませる自治体は多いが、村上氏は「自主防災マップ作成支援は一番住民に身近で、かつ効果的な施策だと思います」と言う。

「災害対策では、地域のリスクを住民自身で発見し、それを潰していくことが重要です。自主防災マップ作りは、住民全員参加でリスクを共有できますし、コミュニティ活性化など色々な地域課題を解決する足がかりにもなります。行政としては、ハードの対策はもちろん、こういった、住民に『防災』を自分事として捉えてもらうための施策も考えていきたい。地域の実情に応じた自主防災マップをつくり、地域に共助の体制を構築していけば、災害に強いまちができあがると思います」

自主防災マップの作成過程で生まれる強固な繋がりこそが、地域防災力を高めるエンジンとなる。

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