多彩な防災向けサービスをフルに活用した、積極的な防災・減災への取り組み

「過去最大級」や「数百年に一度の」と形容される災害が頻発する昨今、全国の自治体では、その地域ごとの特色や状況に併せて様々な対策がとられています。
今回お話を伺うのは、令和元年の台風被害で全国的にも大きく報道された千葉県木更津市の防災を担当する木更津市危機管理課の鎌田清嵩氏と米澤聡史氏。
ゼンリンが提供する防災サービスにどのようなメリットを見出してもらえたのか、台風の猛威にさらされ、これまで以上に高い防災意識を持った同市にお話を伺いました。

課題

令和元年の災害による被害から必要性を感じた防災体制の強化

令和元年台風では基準風速以上の風が吹き、風害による被災が目立った。

房総半島の内房に位置し、東京湾アクアラインの着岸地である千葉県木更津市。東西に長く、西は盤洲干潟、東の内陸部には緑豊かな上総丘陵が広がります。
そのため、東西で災害の種類が異なるのが特色。また、海沿いには埋立地が多く、小櫃(おびつ)川、矢那川といった大きな二級河川が東西を貫く地形となっており、地震・津波・液状化や河川洪水、高潮浸水、ため池浸水、土砂災害など様々な自然災害が想定されています。

令和元年にはふたつの台風と大雨が連続して発生。激甚化かつ頻発化した災害により、家屋等の損壊に関する被害件数が約7,156件にのぼる甚大な被害を受けました。

「令和元年の災害では、停電で庁舎間の連絡が途絶しました。木更津市は、駅前庁舎と朝日庁舎に分かれているのですが、互いの情報共有ができませんでした。一方で市民の方から被害に関する電話が多数寄せられ、対応に追われました。年々激甚化する災害を前に、街の被災情報の掌握や情報共有など、防災体制の強化が急務であることを痛感しました。その際、災害前に締結した「災害時支援協定(*1)」で提供いただいていた災害対応専用の住宅地図が、被害状況の掌握に非常に有用でした」(木更津市危機管理課 以下同)

(*1) 災害時支援協定:

災害時に必要な備蓄地図・広域地図の提供、備蓄地図の一定期間の複製利用の許可、インターネットで利用できる住宅地図の無償提供を可能にする自治体向けのサービス。2022年12月末現在、729自治体と協定を締結しています。

今回お話しを聞いたのは、木更津市総務部危機管理課の鎌田氏()と米澤氏()。

依頼内容/導入効果

災害時支援協定で提供された最新の地図を活用

令和元年の災害が起こる約1年前に木更津市はゼンリンと「災害時支援協定」を締結。
「平成30年度に同協定を結び、災害対策専用の住宅地図帳を5冊提供いただいておりました。市民から災害情報等が寄せられた場合は、まず『いつ・どこで・どんなことが起きたか』を地図上に記録するのですが、提供いただいている住宅地図は年に1回更新され、最新の地図で確認ができるので、市民から貰った情報と齟齬なく、場所が確認できるのが大きなポイントと感じています。特に令和元年度は多くの市民が被災し、市民から寄せられた情報も多かったことから非常に重宝しました」

「使い勝手」を追求。最新地図と見やすさを重視しながらハザードマップを定期更新

この災害を経て、木更津市で全庁的に防災に関する意識がより高まりました。
令和元年に危機管理課の職員は8名でしたが、現在は10名に増員。さらに庁舎間の情報共有システムや訓練のマニュアルを整備しました。

その一環として、令和3年(2021年)に刷新されたのがハザードマップです。
「従来は、洪水、津波、地震・液状化と災害ごとにA1サイズの折り畳み型ハザードマップを作成し、各家庭に配布していました。特に洪水のハザードマップは見開きにしても横長になるので、北部、南部、東部の3枚に分けていました。これだと使い勝手が良くないところもあり、制作の際は、市で想定される災害全てをひとつの冊子にしたいと要望しました」

ゼンリンが作製したハザードマップはB4版の冊子で、各種災害情報をひとつにまとめた上に、地図の縮尺も従来のものより可読性を重視した1万2000分の1とし、「文字が大きく見やすくなった」と市民からは好評。ゼンリンの住宅地図を基にしており、一戸一戸の家屋や建物、道路の形状がわかるのも、ゼンリンのハザードマップならではの長所です。

「従来はほぼ地図を更新せず増刷していましたが、現在は随時更新され、実状に合ったハザードマップを公表できています。また、色の濃淡で表記していた浸水深を、『より見やすくして欲しい』という市民の声に応えるかたちで、別色で判別しやすい色にアップデートしてもらうなど、きめ細やかな対応をしていただきました」

冊子化されたハザードマップ。増刷の際には、ユーザーの使い勝手を考慮した細やかな変更を実施した。

要望に応え、浸水深の視認性を高めた増刷版(左)。右は初版のハザードマップ。

より自由度が高く、検索も可能なWEB版ハザードマップ

「冊子版は非常に使いやすくなったのですが、どうしてもページの境界に地図が掲載されている地域の方や、もっと自宅を中心として避難ルートを把握したいという方もいらっしゃる」
そうした声を反映して、さらにWEB版ハザードマップも立ち上げました。

「冊子版のハザードマップは紙である性質上、縮尺は固定となっていますが、WEB版ハザードマップでは好きな縮尺で確認でき、印刷もできるため、冊子版と比べて自由度が高い。そして何より住所で目的地を検索できるのが大きなポイントで『使いやすい』と好評です。また、転入を考えている市外の人も簡単に閲覧できるのがメリットですね。東京湾アクアラインが出来て以来、市外の人が多く木更津市を訪れるようになりました。そうした方々にもご利用いただけていると思います」

アナログからデジタルへ。災害・ハザード情報はひとつの地図に集約

ハザードマップと並行して木更津市では、「ゼンリン住宅地図LGWAN 防災パック」の導入も進めました。同サービスには、ゼンリンの住宅地図をセキュリティの高いLGWAN(*2)環境下で利用できる基本機能に加え、台帳管理やエリア集計といった防災部署の人手をサポートする防災に特化した機能が追加されています。

「システムを導入する以前は、関係各所、そして市民から連絡があった災害箇所を紙の地図で確認し、ハザードマップと照らし合わせていました。システムを導入してからはモニターの地図上にハザード情報が初めから重畳されていることに加え、住所検索できるため、確認作業がスムーズになりました。災害時は多数の被災情報が寄せられ、命に関わる一刻を争う場合もあるので、非常に有効だと感じています」

さらに様々な情報を地図上に表示でき、避難指示の際にも有効とのことです。
「避難所開設情報を随時入力することが可能ですし、気象庁が発信している大雨や洪水警報の危険度分布(キキクル)がリアルタイムに表示されます。システム導入前は、避難住所のリストアップが手書きで作業が追いつかない状態でしたが、現在は避難対象地域の抽出がとてもスムーズで、他部署と最新の情報を共有できる点も大きなメリットです」

(*2)LGWAN:

行政機関専用のネットワークシステム「Local Government Wide Area Network」の略称。インターネットから切り離された閉域ネットワークであり、有事の際、行政間の情報共有ツールとしても活用される。

導入の決め手は、「要支援者を地図上で可視化」出来ること

このように防災パック導入の理由は多々ありましたが、決め手となったのが病気や怪我、高齢などを理由に避難の際に支援が必要な「要支援者の台帳」の住所を基に地図上に重ね合わせて表示できる機能です。
「自治体としてあらかじめ要支援者の避難計画を立てておくことは肝要です。ただ、木更津市はハザードエリアが広いため、自ずと要支援者も多くなります。従来は要支援者の名簿をつくり、紙の地図と照らし合わせながら確認していく作業が必要でした。ゼンリン住宅地図LGWAN導入後はハザードマップを重ね合わせて職員のPCにある要支援者の位置情報が可視化できるのが大きなメリットです。要支援者本人の了承が得られれば、各自治会、または近隣住民に情報を展開できるため、サポートが必要な人がどこに居て、どのように避難させたらいいか、など事前に協力連携や避難ルートを検討することが可能です」

なお、要支援者の情報は市の福祉部門から、住民基本台帳は市民課から提供。支援の輪を広げるには、危機管理課だけではなく、庁全体を巻き込み、横断的に情報を共有するのが理想的です。ゼンリン住宅地図LGWANの導入をきっかけにして、部署の垣根を越えて住民情報を共有する重要性について共通認識が図れました。また庁内でも、横断的に情報共有を行うことで効率化・対策検討が促進されるという副次的効果も生まれました。

今後について

市の「積極的な取り組み」が地域へも波及

こうした木更津市の積極的な防災体制に影響を受けてか、自治会によっては自主的に「地域のより詳しい情報を掲載した独自のハザードマップや防災マップを作製したい」との声が聞かれるようになりました。
今後、木更津市の防災活動は一段と新たな広がりを見せそうです。

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