名所図会・観光案内図・鳥瞰図の世界

日本において江戸時代の初めごろから庶民の間で「旅行」が盛んに行われるようになった。当時の目的は「おかげ参り」(お伊勢参り)をはじめとした寺社参詣が主であり、移動手段も徒歩であった。
その頃に出版されていた書物としては街道図や名所、宿場の場所、距離などを記した「道中記」や、名所を図で表した「名所図会」があり、旅行案内書の役割を担っていたと考えられる。
また西洋絵画の技法であった遠近法が江戸時代の日本画に取り入れられ、「浮絵」と呼ばれるジャンルが生まれたことで、奥行きのある浮世絵が描かれるようになった。
これらが融合することで、江戸時代半ばの葛飾北斎や歌川広重などの著名な浮世絵師の作品の中にも地理的な情報が付加され、後の鳥瞰図ともいえるものが登場する。
明治時代になると、鉄道と船舶の普及により、人々の移動手段に大きな変化が生まれる。その結果、北海道から九州に至る様々な場所が旅行先となった。大正中期ごろからはいわゆる「サラリーマン」と呼ばれる中間層が登場し、彼らは余暇の新たな過ごし方を求めていた。鉄道会社や汽船会社も、旅客を増やすために沿線を観光開発し、観光客が自社を利用するように力を注いだ。
こうして生まれたのが、地図の中で名所を案内する観光案内図である。庶民になじみ深いものとなった旅行をより多くの人が楽しめるように、視覚的に訴えている。
その中で取り入れられていったのが当時普及し始めたばかりの写真の利用や、鳥瞰図という絵画手法であった。

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