ゼンリン陸上競技部 創部30周年を記念して、OB・現役選手のスペシャル対談をおこないました。
第2弾は、金子公宏さん(1992年入部)と高山峻野選手(2017年入部)です。途中、藤森菜那選手(2020年入部)も加わり、笑いのたえない和やかな対談となりました。
金子さんは引退後、教員の道へ。そして現在、高山選手と藤森選手のコーチをされています。金子さんの現役時代のエピソード、二人のコーチになった経緯、高山選手から金子さんに聞いてみたかったこと、など、普段はあまり話題にしないことを中心に語っていただきました。

一番印象に残っていることと一番嬉しかったこと

――金子さんと高山選手、お互いが印象に残っているエピソードはありますか?
金子:

一番印象に残っているのは、大学3年の時に日本選手権で優勝した時ですよね。
あの年、関東インカレで・・・それこそ学生の主要な試合で初めて入賞しまして。4番だったと思いますけど。その後、本当は日本選手権までに個人選手権を1試合はさんでもよかったんだけど、その時はしっかり練習できればしっかり走れるような感じがあったので、関東インカレ後から日本選手権までのちょうど6週間、メニューを組んで一緒に練習やったんですよね。
結構きつかったと思いますけど。その6週間で本当に大きく変わってくれて、これはひょっとすると・・・・と思って、淡い期待を持っていたんですが・・・。まさか優勝するとまでは。すごかったなと思いますね。それが一番の思い出ですね、私は。

高山:

その大学3年の時の日本選手権で、準決勝だったかな?走り終わって自己ベストが出たんですよ。

金子:

自己ベストが出たのは予選と決勝。

高山:

あ、予選か。13秒7くらいのベストが出て、先生がもうすごい良い笑顔で向かってきて思いっきりこうしてきたんですよ。手を振りかざして。だから僕はこうやってよけて・・・(笑)

全員:

(笑)

高山:

「ハイタッチ、ハイタッチ!」って言われて。それがすごい嬉しかったです。先生普段そういう・・・ストレートに喜んでくれること無かったので。

金子:

他の学生もいっぱいいますのでね、普段は。クラブなので、他の学生もいっぱいいる中のひとりじゃないですか。
でもあの時は、ちょうど関東インカレも終わって、他の部員もあとは個々でやるっていうような流れの中で、彼一人にその6週間、マンツーとまではいかないけど、しっかりできたということもあって。

高山:

あとは印象に残っているという意味では、大学2年の関東インカレ前に脚を痛めたか何かで、出場するかどうか悩んでた時があったんですよ。試合の前日に金子先生に「明日どうする?」って聞かれて、「まあ、とりあえず出ますよ」て言ったんです。そしたらすごい怒られて。「とりあえずで出るような選手は出なくていい!明日までにどうするのか決めろ」って。「すみませんでした・・・」ってなりました。

全員:

(笑)

金子:

怪我してもどうしようもないのでね。その判断はこちらも出来ないので。

高山:

初めてすごい怒られたんですよね。めちゃくちゃ怖かったです。あれは印象的でしたね。そのあとの試合はピリッとして走れました。

――では、これまでで一番嬉しかったことって何ですか?
金子:

2019年の世界陸上のパフォーマンスは嬉しかったですよね。
日本記録を出した時は、たぶん出るだろうと思っていたので大して嬉しくなかったんですけど・・・いや嬉しくないと言ったら語弊がありますね。驚きが無かったというか。
ですけど、ドーハの時は、一緒にやってきてここまで上手くいったか、というか。現地に入っても日本にいた時より動き良かったですからね。そういった状態にもっていけたということは嬉しかったですね。

――世界陸上の準決勝後はどういった声をかけたんですか?
金子:

「うん、お疲れさん。」って。

高山:

準決は失敗しちゃったので、サブトラに戻った時に、僕がこうやって、「やっちゃった」ってポーズしたら、先生がすごい笑ってくれました。

金子:

準決勝で、あそこまで行けたっていうのは嬉しかったですよね。

――高山選手自身は、今までの競技生活で一番嬉しかったのは?
高山:

嬉しいのは、やっぱり2019年の日本選手権で泉谷くん(順天堂大学)に競り勝った時ですね。
前半行かれて後半グダグダになってしまったので、ほぼ負けたと思っていたんですよね。選手の目線からするとどうしても前に出られている感じがあったので。そこで負けたと思って勝った時のギャップというか。それでさらに嬉しかったです。電光掲示板でバッと出て、「あ、勝ったんだ」って。

――あの時はゴール後、ガッツポーズしてましたね。
高山:

そうですね。

金子:

あの時はよく勝ったなと思いましたよ。雨が降っててコンディションが悪かったというのもあるんですけど、あの日の決勝、練習でハードル跳んでないんですよ。濡れるのが嫌だとか言って。それでよく走れたなと感心しました。

写真:第103回日本陸上競技選手権大会のゴールシーン(2019年6月、 フォート・キシモト撮影)

お互いが思う、競技者としての魅力・コーチとして尊敬できるところ

――金子さんから見て、高山選手の競技面での魅力はどんなところですか?
金子:

うーん、具体的には言えないですけど、やっぱりハードリングのセンスと言いますか・・・、何となく好きで。
あとは今で言えばとてもクレバーですよね。競技に対してもトレーニングに関しても。しっかり勉強してるなと思うし、バランスがいいなと思う。競技に対するものと、私生活と。切り替えが上手いし集中力あるし。

――高山選手から見て金子さんの尊敬できるところは?
高山:

もう全部です。

金子:

そんなこと思ってませんよ(笑)

高山:

僕の薄い知識で先生に「こういう事ですか?」と聞いたら、1言ったことが10くらいになって返ってくるんで。すごいなと。

――藤森選手はどうですか?
藤森:

自分に合わせてくれるところ。一人一人に合わせてくれているところがすごく良いです。

高山選手が聞いてみたかったこと

高山:

現役時代、一緒にレースに出るのが嫌だった選手はいましたか?

金子:

いなかったですね。

高山:

えー。杉井先生(現:浜松市立高監督)とかは?速い人と走るの嫌じゃなかったですか?

金子:

嫌ではなくて、速い人と走りたかったですね。

高山:

えー。

金子:

まあ、我々は若いので、向こうはもうベテランじゃないですか。だから最初のうちは、速い人がいっぱいいれば一緒に走って勝ちたいし、それぐらいだったかな。嫌とかより、勝ちたいっていう気持ちの方が大きかった。

高山:

すごいですね。僕はレースで隣に誰かいると嫌なタイプなので。

金子:

一人でレースを走れればいいんだけどね(笑)

――一人で走る方がいいですか?レースって。
金子:

周りがいた方が、雰囲気含めて違うんですけど・・・。
やっぱりハードルのレースの特性と言いますか、スタートでポンと出ちゃうと周りに影響されずに自分のレース、自分のリズムで行けるので、そっちの方が走りやすいですけどね。

高山:

そうですね。確かに8人並んでスタートだけ一緒に走りたいです。あとは消えてもらって(笑)

金子:

いつも消してるもんね(笑)

――だからスタートが良いとそのあとも良いんですね。
金子:

当然、人って全員リズムが違うので、変なリズムに影響されて自分の動きも変になっちゃう時もあるし、逆に自分のリズムで相手を変にしちゃおうと思う時もあるし。まあ、それがハードルの面白いところです。

――その質問をするということは、高山選手は一緒に出たくない選手がいるんですね。
高山:

多々います。金井くん(ミズノ)、泉谷くん、石川くん(富士通)、野本くん(愛媛陸協)、・・・

金子:

いつも一緒に走っている人ばかりだ(笑)

高山:

金子先生、現役時代はウエイトトレーニングどれくらいやってました?

金子:

我々の時は週2回か3回だったかな。私より高山くんの方がやってると思いますよ。

高山:

先生のウエイトのベストがすごすぎるんですよ。でも昔の写真をみても結構細身じゃないですか。それなのに僕より上げるんですよ。

金子:

競技で強くなった人ってリフト系と相関があったというか、そんな感じがしたので、それはしっかりやったんだけど・・・。当時、ハイクリーンが145キロ、スナッチが100キロでしたね。

全員:

えー!強い・・・!

高山:

僕はクリーンが130で、スナッチが90しかいかないんですよね。

金子:

私も当時、体重が70キロくらいあったので。クリーンでいうと体重の倍くらいなんですよね。スナッチであれば1.5倍ぐらい。昔は強い選手はだいたいそこくらいまで上げてた印象があります。
一方で私、ベンチプレスは105キロと、そんなに強くなかったです。それこそ窪田慎くん(1995年入部、短距離)は140とかでしたっけ?あんな小柄で軽いのに上半身お化けですごかったなと。

――それを聞いたら、高山選手もまだまだ追い込まなきゃなと思います?
高山:

絶望して何もしたくなくなります(笑)

写真:ウエイトトレーニング(2020年2月撮影)

高山:

最後にもうひとつ。選手時代、どこを最終目標にしていましたか?

金子:

なんかそういった目標ってあんまり無かったですね。さっきの話に近いですけど、とにかく試合に出て勝ちたかった。その結果として記録が出たり、代表に選ばれたりすれば良かったですけどね。

――高山選手はどちらかというと、人との勝負よりも「自己ベストを出すこと」に重点を置いていますよね。そこはちょっとタイプが違いますね。
金子:

こっち(高山選手)のほうが全然上ですけどね。

高山:

いえいえ、そんなこと無いです。

金子:

記録ってなった時に、なんかイメージが沸かなかったんです。記録を伸ばすためにどう取り組んでトレーニングしていくか、とかが無くて、漠然と「負けたくない」というところでやっていたような気がしますね。その結果、色んな試合に出られれば良かったですしね。

――藤森選手は、この機会に金子さんに聞きたいことはありますか?
藤森:

んー何かあるかな・・・。

金子:

いつも聞いてばっかりだから無いんじゃないの(笑)

藤森:

そうなんですよ。いつも何でも聞いちゃってるので(笑)

陸上競技は好きですか?

――それぞれが思う、陸上競技の魅力について・・・・皆さん、陸上は好きですか?
金子:

嫌いではないと思うんですけど、年を取ってくると色んなスポーツを見るのも楽しいし、ただ陸上は唯一経験があるだけの話で。

――今後の陸上界に対する思いなどはありますか?
金子:

そういうのは無いです。
各種目レベルが上がってきたので。数年前を考えると、世界との差がすごくあったじゃないですか。それが結構急激にうまってきた中で、今後はよりその差を縮めていってもらいたいし、その中で日本人らしい理論というか、独特な文化みたいなものが生まれてくるといいですよね。

――高山選手はどうですか?陸上競技に対する思いなど。
高山:

特に無いですけど、見る分にはすごく面白いなと思います。でもやる分には本当に楽しくないんですよね。

――見る分には面白いというのは、自分の種目以外も見たりする?
高山:

はい、長距離の試合とかもけっこう見ます。
でも実際やる分には本当に面白くないですよ。ただキツイだけ。試合も面白くないですし。試合でゴールした時にやっと解放されるというか、そこで結果が出て初めて「嬉しい」とか「楽しい」という感情がわくので。
基本的には・・・どちらかというと嫌いですね、陸上競技は。野球の方が好きです。

全員:

(笑)

――藤森選手はどうですか?
藤森:

今やっと「好き」と言えるようになりました。大学3年くらいから、やっと「ハードルが好き」と言えるようになりました。それまでは嫌いでしたね。

写真:第104回日本陸上競技選手権大会のレース後(2020年10月、 フォート・キシモト撮影)

これからのゼンリン陸上競技部について

――今回、陸上競技部30周年を記念した対談企画なんですけど、最後に、これからのゼンリン陸上競技部に期待することやOBとしての思いなどがあればお聞かせください。
金子:

スタイルはそれぞれだと思うんですけど、他の実業団チームは長距離も含めてがっつりとしたチームで予算も取ってやっていたり、代表クラスしか採らないとか、代表になれなかったらクビといったチームも中にはありますよね。
そういったチームもあってもいいと思うんですけど、一方で、ゼンリンの良さというのはそういうものには拘らず、選手ファーストで選手がストレスなくやれるような環境を作ってもらえているというか。
例えば畑山くんの時とかは投擲という世界にチャレンジするような種目だったんですけど、そういった選手をしっかりと会社でサポートしてくれる、そういうところなんですよね。種目関係なく、チャレンジする選手を応援してくれるのがゼンリンかなと思っています。
将来ある選手を受け入れながらもゼンリンらしく今後も貢献してほしいと思いますし、活躍してほしいかなと思います。近年では二人の日本記録保持者が出たので、世間から見る目も変わったと思いますしね。

<プロフィール>

金子 公宏

1992年入部。種目は110mハードル。学生時代、手動計で当時の日本記録(13秒9)を出したことがある。1996年に引退し、現在は明治大学の准教授であり、高山選手と藤森選手の専任コーチも務める。

高山 峻野

2017年入部。種目は110mハードル。日本選手権は2015年・2017年・2019年と3度の優勝経験あり。2018年にはアジア大会で銅メダルを獲得。2019年に日本記録(13秒25)を更新し、世界陸上では準決勝に進出。

藤森 菜那

2020年入部。種目は100mハードル。学生時代は関東インカレ優勝、学生個人選手権優勝などの成績をおさめる。社会人1年目の2020年は日本選手権で3位、自己ベストも更新した。今後の活躍が楽しみな選手。

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