1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災など、大きな災害が日本を襲っている。こうした災害の際に、視覚障害者は平時以上に弱い立場となり、周囲の支援が必要とされる。社会福祉法人岐阜アソシア様では、災害時に効率よく支援ができるよう、Zmap-TOWNIIを使った支援マップの作成を進めている。

ゼンリンの商品を導入した背景

被災地では視覚障害者は弱い 詳細な住宅地図が必須となる

社会福祉法人岐阜アソシア様(以下、岐阜アソシア)は、1890年に設立された岐阜聖公会を発祥とする、視覚障害者のための民間の福祉施設である。1891年に岐阜県と愛知県をまたぐ濃尾地方を襲った直下型の濃尾地震では、災害によって障害を負った人々を救う使命から、その方々に職業訓練を行うための岐阜鍼按練習所を開設。それ以来、岐阜アソシアは視覚障害者に対するさまざまな支援を行ってきた。現在では「視覚障害者生活情報センターぎふ」を運営し、おもに在宅の視覚障害者の方々を対象とした幅広い事業を展開している。

棚橋 氏

「視覚障害者にとって日常生活を送る上での大きな不自由は、情報の取得と移動(歩行)のふたつだと言われています。それらのサポートが岐阜アソシアのおもな事業内容になります。例えば、点字図書館の運営。これは図書や生活情報を点字化したり、音声化して提供する施設です。一般の図書館のように、点字本やCDを全国に貸し出すだけでなく、製作もこちらで行っているわけです。こうした図書館は全都道府県に最低1館、全国には90館しかなく、これを維持するためには多くのボランティアスタッフが必要で、その養成も大事な事業のひとつとなっています。さらには地域の視覚障害者のための生活相談や移動支援サービス、歩行や日常生活動作などの生活訓練(リハビリテーション)、中途視覚障害者点字学習指導などもこちらで行い、視覚障害者を多面的にサポートしています。」

こうした福祉施設のおかげで、障害をもっている人たちの生活は大幅に向上しているが、災害時ともなれば話は別だ。

棚橋 氏

「1995年の阪神淡路大震災で災害時における障害をもっている人の弱さを目の当たりにしました。」

避難所における視覚障害者は、壁に貼りだされている紙面から情報を得ることができず、食料などの支援物資を取りに行くことも難しい。しかも見た目では障害者と分からないことも多く、視覚障害者は周囲からのサポートを受けにくいのだ。たとえ手助けをしてくれる人が現れたとしても、それが逆に精神的な負担となることもある。その結果、しだいに自分の居場所がなくなって、最終的に自宅へ戻ってしまう視覚障害者が多かった。

棚橋 氏

「あの時はすぐに現地に行き、名簿を頼りに、2週間で2000人弱の視覚障害者の安否確認を行いました。この経験によって、どんな時でも障害者を支援できる体制を築くことが必要だと痛感しましたね。」

ゼンリン商品の決定理由

住宅地図のような詳細さが必要 さらにそこに情報を追加できるように

阪神淡路大震災では、避難所を出た視覚障害者を探しに行っても、家屋が倒壊し、番地の表示も瓦礫に埋もれて見えないため、住所だけではなかなか目的地に辿り着けなかった。そんな状況下で最も頼りになったのが、住人の名前や建物の階数、敷地の形状まで記載されたゼンリンの住宅地図である。特に土地勘のない、ほかの地域から来た支援者にとって、住宅地図の存在はありがたかった。

棚橋 氏

「ナビで辿り着けるのは付近まで。震災後の混乱した状況では目的の場所を見つけるのは極めて困難です。そのため、倒壊した建物の瓦礫の中で発見した表札や、お店の看板などから建物を割り出し、それをランドマークにして、そこから目的の住所を探し出すことができました。」

この経験をもとに、災害時に備えるため、岐阜アソシアはZmap-TOWNIIを導入した。Zmap-TOWNIIでは、道路、鉄道といった構造物や建築物をはじめ、行政界や交通規制情報、さらには一軒一軒の建物名称までがカバーされている。さらに、刻々と移り変わる街の姿を地図に反映させるため、ゼンリンの全国の調査員が一軒一軒の建物を歩いて調べている。一方通行をはじめとした交通規制情報や、バス停、交差点名なども詳しく調査。こうした詳細な情報が、岐阜アソシアのニーズに一致したのだ。

棚橋 氏

「当初は別の、CD-ROMの住宅地図を使っていたのですが、地図への書き込みができず、震災時に、障害者の住所リストと地図上の場所をその都度照合しなければならないため、時間がかかる恐れがありました。そこで障害者の情報と支援者の情報を地図上で管理すべく、2008年にZmap-TOWNIIを使って、システム化しました。」

Zmap-TOWNIIは、道路、鉄道、建物、行政界、居住者名、事業所名など、地図を構成するさまざまな情報が、128のレイヤに分かれており、必要なレイヤだけを利用することが可能だ。そこに、利用者独自のデータを追加することも可能なため、利用者にとって必要な情報をうまくまとめた地図をつくるのに向いている。

棚橋 氏

「現在では万が一の災害時に備えて、マップ上にある要援護者(視覚障害者)や支援者の自宅、福祉施設の事業所、避難所などを色分けし、さらに電話番号や支援者の名前や連絡先など、いざという時に必要な情報を入力する作業を進めています。これによって位置関係がマップ上で一目瞭然になるため、混乱状態の被災地でも効率の良い支援が可能になると期待しています。また、実際に災害が起こり、視覚障害者が避難所を転々としても、すぐに内容を書き換えられたり、前の住所の履歴も残せるので、情報の管理がしやすい点にも注目しました。」

さらに事前に管理しておくことで、災害時には支援者ごとに担当エリアだけを印刷して渡すことも可能となる。これによって、より効率のよい支援ができるだろう。障害者の中には、常用薬がなくなったり、透析を受けられなくて亡くなる方もいる。それを避けるためにも、なによりも迅速な支援が求められている。

今後の展開

Zmap-TOWNIIによる支援用地図づくりは 今後は岐阜にとどまらず、全国規模に

Zmap-TOWNIIを使ってつくられた、こうした地図があれば、被災地支援のために他の地域からやってきた人でも、より少ない労力で目的の住所に辿り着くことができると考えられる。

棚橋 氏

「例えば、視覚障害者Aさんの自宅に行き、さらに地図を見ながらAさんを近くの避難所や福祉施設に連れていくことなどが、これまでよりもずっと容易になると考えています。この仕組みづくりは、現在では岐阜県内の20市町村をカバーしています。これは全体の6割ほど。さらに地区を追加して、できるだけ早く県内全42市町村をカバーできるようにしたいですね。」

東日本大震災の状況を踏まえて、岐阜アソシアが進めるこの取り組みを全国に広げようと、まずは岩手、宮城、福島の東北3県の視覚障害者に個人情報の提供を呼びかけたところ、1400人から登録依頼があったという。

棚橋 氏

「最終的には行政と情報を共有するなどして、災害時の視覚障害者支援の仕組みづくりにともに取り組んでいきたいと思います。また現在は健常者が管理運用するシステムですが、将来的には障害者でも使えるようにできたらいいですね。」

高橋 秀夫 氏
常務理事 館長
高橋 秀夫 氏

「視覚障害者を支援する仕組みづくりは、今後も地道に広げていきたいですね。」

棚橋 公郎 氏
サービス課長
棚橋 公郎 氏

「支援の仕組みづくりには、精度の高い、詳細な地図が必要になります。」

災害支援マップ

災害支援マップ。画面上、緑で塗られている建物は福祉事業所。このように要援護者の自宅、支援者の自宅、避難所などがマップ上に色分けされている。

災害支援マップ詳細情報

マップ上の色がついた建物をクリックすると、詳細情報が表示される。要援護者であれば、主治医や緊急連絡先、支援者名など災害時に必要な情報がすぐにわかる仕組みだ。

GIS地図データ商品 / ソリューションに関するお問い合わせ

導入商品

住宅地図データベース Zmap-TOWNII

住宅地図データベース Zmap-TOWNII

戸別の建物情報まで収めた、詳細な住宅地図データベース。