ゼンリン住宅地図LGWANを活用した避難行動要支援者の個別避難計画策定
自治体と住民が連携した防災・減災体制の一層強化へ

近年の自然災害の甚大化を受け「誰ひとり取り残さない」ことを目的として、2021年春に国会で災害対策基本法が改正されました。これにより避難行動要支援者の個別避難計画の作成が自治体の努力義務となりましたが、膨大な対象者の情報管理や更新作業に頭を悩ます自治体も少なくありません。
その中で、今回は個別避難計画の積極的な作成に乗り出した茨城県日立市のケースをご紹介します。これまでの防災・減災体制の在り方から、個別避難計画に関する取り組み、そして今後の展望を伺いました。

背景

東日本大震災で津波に襲われた日立市

茨城県の北部に位置する日立市は、東を太平洋、西を阿武隈山地に挟まれた自治体です。豊かな自然に囲まれている反面、津波や土砂災害など甚大な災害に繋がるリスクも抱えています。
2011年の東日本大震災では震度6強を記録し、沿岸一帯には4mを超える津波が押し寄せました。市内には最大69箇所の避難所を開設し、1万3607人の住民が避難をしましたが、幸いなことに災害における死者は発生しませんでした。これほど大きな災害に直面しながらも最小限の被害に留められたのは、市内で長年培われた防災意識の高さにあったといいます。

日立市役所庁舎も東日本大震災で被災。
安全性の確保が難しくなった旧庁舎に代わって、2017年に新庁舎が建設された。

伝統的に住民主体の防災・減災対策が盛んな地域

「日立市内23の小学校区における自主防災組織は100%機能しており、各地域ごとの避難訓練や講習会など、自主的に防災への取り組みを進めてもらっています」と話すのは、日立市・防災対策課の八木孝知氏(以下、八木氏)です。
「東日本大震災以前より、日立市は自主防災組織の活動が盛んな地域でした。行政が働きかけずとも、地域住民が主体となって避難訓練を実施したり、講習会を開いたり、自主的に防災・減災へ取り組む環境が培われています」
東日本大震災や令和元年東日本台風を経て、同市の防災対策課では避難所のWi-Fi環境の整備や蓄電池の設置、住民へ非常用持ち出し袋を配布するなどハード・ソフト両面での対策を推し進めてきました。さらに、地元大学との防災ワークショップを計画するなど、地域・行政・教育機関が一体となって防災意識の向上と減災に努めています。

ゼンリンの防災・減災ソリューション導入を推進して頂いた、日立市 総務部 防災対策課 副参事(兼)係長 八木 孝知氏

【提案内容】

要支援者の個別避難計画作成における課題

2021年に災害対策基本法が改正され、「災害時に大きな被害を受ける障がい者や高齢者など避難行動要支援者の『個別避難計画の作成』」が自治体の努力義務に位置付けられました。
日立市では要支援者について社会福祉課と防災対策課が連携し対策を練っていましたが、要支援者の情報をアナログで管理していたことにより、最新の全体人数や住居情報を把握できないなど解決すべき課題を抱えていました。
そこで当社から提案したのが「ゼンリン住宅地図LGWAN」。当サービスは迅速に、同一組織内で地図情報を共有できるGIS製品です。日立市がこのサービスで特に注目したのは、要支援者の住所と地図がマッチングし、さらにハザードマップのレイヤーを重ねられる機能です。
「例えば地図上に津波や土砂災害などの属性を与えれば、その該当エリアに何人の要支援者が住んでいるかということも集計できますし、避難経路にどのような危険が潜んでいるかということも可視化できるので、これは課題解決に役立つと導入を決めました」

【導入効果】

民生委員との関係強化を図り、より具体的で確実な個別避難計画へブラッシュアップ

「ゼンリン住宅地図LGWAN」を導入したことで、地域の要支援者の援護にあたる民生委員との関わりにも大きな変化があったと八木氏は話します。
「個別避難計画を検討するまで、民生委員さんと防災対策課が直接関わることはなかったのですが、これを第一歩として連携が始まりました。」
地域の安全に欠かせない民生委員は、要支援者の個別避難計画作成の支援や、災害時に要支援者の安否確認を行うなど、防災の観点からも重要な役割を担っています。日立市では民生委員ひとりにつき十数人の要支援者を抱えており、当サービスの導入をきっかけに避難経路を記した地図を配布しました。

避難経路を記した地図と帳票の一例(図はサンプル)。各災害に応じて、該当エリアでの要支援者の居住場所や避難経路の確認も行える。

「地図には要支援者の住宅と避難所情報、個別の避難経路、ハザード情報の4つのレイヤーを表示したものを紙へ印刷し、お渡しします。」
この地図上に、2022年11月に開催された5年に1度の総合防災訓練にて運用方法や避難経路を実際に確認。市内を流れる一級河川・久慈川が氾濫したことを想定し、洪水ハザードの該当地域に住む要支援者の移送訓練を実施しました。
「今回の訓練で地図と現地情報を照らし合わせることによって、道幅は広いのに入口が分かりづらい住宅や、迎えに行きづらい場所などを確認できました」
行政システム上で情報を管理し、地図データ上に各情報を可視化。これらを地元住民やエリアごとの特徴に精通した民生委員等に配布し、従来の個別避難計画を「より分かりやすく」「より実用的な形に」アップデートさせることができました。さらにこの計画を元に訓練を実施することで、防災・減災計画をより精緻なものにすることができたことも大きな成果です。

【今後について】

ハザードマップの刷新で防災啓発を促進

ゼンリン住宅地図LGWANの導入と並行し、日立市ではゼンリンと協働してハザードマップを刷新、2023年3月に全戸配布しました。市内全域を8つのエリアに分け、洪水・土砂災害・津波・内水のハザードエリアを1枚の図にまとめ、住民への防災啓発を促進しています。
ゼンリン住宅地図LGWAN導入、そしてハザードマップをリニューアルしたことで、計画段階が一旦完了しましたが、大切なのはここからだと八木氏は語ります。
「災害時に一番大事なのは初動だと考えています。実際に大規模な災害が起きたときにも慌てず行動ができる体制を構築し、いざというときに備えられるような取り組みを続けてまいります」

2023年3月に全戸配布したハザードマップ。

マイ・タイムラインのほか、避難に関する情報も充実。

部署を越えた情報共有の効率化が喫緊の課題へ

一方、今後改善すべき点として防災対策課と社会福祉課の連携強化、庁内での情報共有の在り方が残されている状態です。要支援者情報は日々認定者の増減がある更新頻度の高い情報である上に、福祉部内でも高齢者、障がい者、介護者ごとにセクションが分かれていることから、複雑な管理体制にあります。そのため、課を跨いだ最新情報の共有方法には「まだまだ改善の余地がある」と、八木氏は言います。
「要支援者の最新情報をいかに効率的に共有し、マップに落とし込んでいくか。そしてどのようにして最新の個別避難計画へ更新していくかが当面の課題です」

八木氏と共に「ゼンリン住宅地図LGWAN」やハザードマップ導入の実務部分を担当した、総務部 防災対策課 主事 北原 拓真氏

東日本大震災や令和元年東日本台風の教訓を活かしながら、行政、教育機関、自治体が一体となり展開する日立市の防災・減災に向けた取り組みは、他の自治体にとって国内のロールモデルにもなり得る事例ではないかと思います。
そして今回の要支援者への個別避難計画作成に見られる通り、これまでアナログで管理していた情報のデジタル化と部署を越えた情報共有の効率化が、今後の体制作りに重要な役割を果たし、また、地図を介し災害記録や住民情報を可視化して管理することで、庁内での連携を強固にして、有事に備えた対策を推進させることも可能になると思います。
ゼンリンはこれからも自治体の抱える課題に対し、住宅地図ツールを通じて適切な防災・減災ソリューションを提案し、解決に向けた取り組みをサポートしてまいります。

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