DXで加速する土地仕入れと事業戦略――東急不動産が実現した“地図×不動産情報”プラットフォームの革新

広域渋谷圏の開発をはじめ、オフィス、住宅、商業施設、リゾートなど多岐にわたる事業を展開する東急不動産ホールディングス株式会社。
同社では2025年、長年利用していた用地管理システムを刷新し、ZENRIN Maps APIを基盤とした新たな地図DXプロジェクトを始動させました。
従来の情報を記録するシステムから、マーケット情報やAIによる建築ボリュームチェックまでを一気通貫で行える、地図で分析し未来を予測するプラットフォームへ
グループ横断的な意思決定の変化と、ゼンリンの地図データを基盤に選んだ理由について、プロジェクトを主導したグループDX推進部の村西様、グループソリューション推進部の渡邉様、岩本様にお話を伺いました。

課題①事業部間の情報分断による最適な提案機会、用地取得機会の逸失 課題②情報収集、調査時間の工数増大とボリュームチェックの長期化による意思決定の遅れ 解決策「ZENRIN Maps APIを中核とした統合プラットフォームの構築」外部データ・AI連携による意思決定の即時化、モバイル活用による対応力の向上と機会獲得

東急不動産ホールディングス株式会社

グループDX推進部 デジタライズ推進第2グループ
グループリーダー 課長
村西 俊郎 様

グループソリューション推進部 業務推進グループ
グループリーダー 課長
渡邉 翼 様

グループソリューション推進部 業務推進グループ
岩本 恵里 様

【所在地】

東京都渋谷区道玄坂1-21-1 渋谷ソラスタ

【資本金】

773億円

【従業員数】

118名(連結:21,898名)(2025年3月31日現在)

【事業内容】

グループ経営管理事業

組織の「縦割り」による機会損失を防ぎ、意思決定を加速

――まずは、御社の事業概要と、今回のプロジェクトが立ち上がった背景についてお聞かせください。

渡邉氏:

東急不動産ホールディングスは東急不動産を中核事業会社とし、不動産管理を行う東急コミュニティーや、売買仲介を行う東急リバブルなどを擁する総合不動産グループです。特に開発事業においては、創業以来の拠点である渋谷を中心とした広域渋谷圏での都市開発に強みを持ち、オフィス、住宅、商業施設、リゾートなど、多種多様なアセットを用いた事業を展開しています。

ホールディングスの役割は、こうした各事業会社や東急不動産内部にある事業ユニットの共通課題を解決し、シナジーを生み出すことにあります。
今回のプロジェクトも、まさにそのグループ横断的な情報活用における課題解決が起点となっています。

――具体的に、どのような課題を抱えていたのでしょうか?

渡邉氏:

最大の課題は「情報の縦割り」でした。
東急不動産では、住宅事業を手掛ける住宅ユニット、オフィスビルを扱うビル運営事業ユニットといったように、アセットごとに組織が分かれています。
これは専門性を高める上で非常に有効な体制なのですが、用地取得の場面では弊害も生んでいました。

例えば、ある土地情報を最初に得たのが住宅ユニットであれば、住宅ユニットが検討している間は、他のユニットは検討に入れません。
こうした土地に対して検討を行う順番である「番手」を管理するのが用地管理システムの役割です。

用途管理システムの役割 住宅・オフィス・商業など、各事業ユニットに分散していた用途情報を一つの地図上に集約。「どの部署がどの土地を検討しているか」を可視化し、グループ内での情報共有を促進。

用地管理システムの役割におけるイメージ

番手の管理はグループ内の秩序を生む点では非常に有効ではあるのですが、一方で検討が長引いたために他社に先を越されてしまったり、本当は高い収益性を見込めたオフィスビルが検討されないまま見送られてしまったりといったケースが生まれていました。
複数のアセットで同時に用地利用を検討できないことが、機会損失のリスクに繋がってしまっていたのです。

村西氏:

また、従来は情報の収集と整理に多くの時間を割かれ、肝心の分析や企画に十分な時間を割けていないという課題がありました。

一つの土地に対して、分譲マンションならいくらで売れるのか、オフィスなら賃料相場はどうか、といったマーケット調査を行う際、担当者はそれぞれ別々のウェブサービスや社内システムを行き来し、CSVデータをダウンロードして、手作業で資料を作成していました。
また、その土地に建てられる建物のボリュームチェックには外部の設計会社等に依頼することで1〜2週間を要する等、その間に機会を失うケースも少なくありませんでした。

こうした背景から、単に用地情報を管理するだけでなく、その後の検討プロセスの効率化・高度化までを一気通貫で実現する仕組みが必要だと考えていました。

高精度の「住宅地図」データを基盤に用地管理プラットフォームを構築

――今回のシステム導入を検討されたきっかけは何だったのでしょうか?

渡邉氏:

直接的なきっかけは、以前より利用していたゼンリンさんの旧地図システムのサポート終了でした。2023年にゼンリンさんからサポート終了の案内を受け、従来の用地管理システムを刷新しなければならないタイミングが訪れました。
既存の機能を維持したまま新しいシステムへ移行のみ行うという選択肢もありましたが、社内ではかねてより情報の縦割りや調査業務の非効率さといった課題が顕在化していました。

そこで、単なるシステムのリプレースで終わらせるのではなく、このタイミングで課題を一気に解決し、業務を高度化させる地図DXプロジェクトへと昇華させることにしたのです。

――数ある地図サービスの中で「ZENRIN Maps API」を選定された理由についてお聞かせください。

岩本氏:

最終的に2社で比較検討を行いましたが、決め手となったのはカスタマイズ性の高さとプラットフォームとしての柔軟性です。

比較した他社商品はパッケージ化されており、我々が重視していた用地の詳細な番手管理などの独自ルールを実装するには機能が不足していました。
この番手管理とは、一つの土地に対して複数のユニットが興味を持った際、社内で競合しないように誰が一番手で検討しているかを厳格に管理する重要な業務フローです。

一方、ゼンリンさんの提案は、ZENRIN Maps APIという高機能な地図エンジンをベースにしつつ、我々の業務フローに合わせたシステムをスクラッチで開発するというものでした。
こちらのやりたいことが、そのまま形になるという開発力と提案力が、選定の大きな理由です。

――ZENRIN Maps APIは、今回のシステムにおいてどのような役割を果たしているのでしょうか?

村西氏:

今回のプロジェクトは、単に地図を表示するビューワーを作ったわけではありません。ZENRIN Maps APIを活用した地図データの統合プラットフォームを構築しました。

不動産実務において、地図はすべての情報の土台です。
ゼンリンさんの地図データは、建物名称や居住者名まで網羅した住宅地図レベルの精度があり、かつ常にデータが最新に更新されます。
この信頼性の高いデータをシステムのベースとして採用したことで、その上に社内の用地情報、外部企業が提供するマーケットデータ、さらにはAIによる建築シミュレーション機能などを、一つのシステムに統合することが可能になりました。

もしベースの地図が不安定だったり、拡張性の低いAPIだったりすれば、これほど多様なデータをスムーズに連携させることは不可能だったと思います。
まさに、我々のDX構想を支えるOSのような役割を果たしています。

外部連携で実現した一気通貫のシミュレーション

――今回のシステムで連携した外部3社の役割と導入効果について教えてください。

村西氏:

今回の地図DXプロジェクトにおける最大の挑戦は、それぞれ異なる強みを持つ外部サービス3社、「つくるAI株式会社」「株式会社マーキュリー」「株式会社estie」のデータやサービスを、ゼンリンさんの地図プラットフォーム上に統合したことです。

ZENRIN Maps APIを活用した用地管理システム 用地仕入れに欠かせない地図情報と物件調査をサポートする機能を備えたオンライン地図サービス

今回構築した、地図DXシステムの概要
総合不動産の用地仕入れ業務の中で、担当者が仲介会社から数多紹介を受ける用地情報を地図上に登録し、どの仲介会社から1番に情報を仕入れたか番手管理をする。
社内の検討状況の可視化や、検討材料や情報の収集、ポテンシャルの評価・企画検討・分析でも利用。

最も革新的な機能が、つくるAI社との連携によるボリュームチェックです。
これは地図上で検討したい土地を囲むだけで、AIが建築基準法や都市計画法などの複雑な法規制を瞬時に読み込み、その土地に建てられる形状や規模の建物を3Dモデルで自動生成するというものです。
これまで設計事務所に依頼して1〜2週間かかっていたボリュームチェックが、簡易的ながらシステム上で即座に完結するため、一次判断の材料を即座に得ることができるようになりました。

つくるAI社製 「ボリュームチェックツール」画面イメージ

そして、マーケット分析の効率化を担うのがマーキュリー社とestie社との連携です。
住宅事業においてはマーキュリー社が持つ分譲マンションの供給実績や価格相場データを、オフィス事業においてはestie社が持つオフィスビルの賃料相場や空室率データを地図上に表示できるようにしました。
従来は担当者がそれぞれのウェブサービスにログインして調べていましたが、今は一つのUI上で周辺のマンション相場もオフィス賃料も同時に把握できます。

画面イメージ (用途地域+オフィス賃貸マーケットデータ+分譲マンションデータを重畳表示)

これら3社の機能を一つの地図プラットフォームにシームレスに統合したことで、用地情報が入った瞬間に「住宅ならこの価格」「オフィスならこの賃料」「建物規模はこれくらい」と多角的なシミュレーションが可能になり、最適な用途を即座に比較検討できる環境が整いました。

――外部サービスとの連携で苦戦はされませんでしたか?

村西氏:

そうですね。特につくるAI社に関しては、まだ新しい技術領域でしたので、私自身が直接企業を探し出し、役員の方と交渉するところから始めました。精度の検証や、我々のシステムとどうAPI連携させるかという技術的な議論も含め、かなり密にやり取りを行いました。

また、社内調整においては、各ユニットから用地管理の実務担当者を10名ほど集め、プロジェクトチームを結成しました。
どんな機能があれば便利か、どうすれば業務が楽になるかという現場の声を徹底的に吸い上げ、それをグループソリューション推進部でまとめ上げてゼンリンさんに実装を依頼する、というプロセスを経ることで、現場にとって本当に価値のあるシステムを目指しました。

街の解像度を高め、選ばれるデベロッパーへ

――2025年9月の稼働開始以降、社内の反響はいかがですか?

村西氏:

やはりボリュームチェックへの反応はかなりありました。ボリュームチェックには様々な規制が影響しますので、本当に難しいんです。
また弊社社員は異動が多い関係で、組織としてノウハウの蓄積が難しい側面がありました。そうした環境の中ですから、簡易的にでもボリュームチェックできるのは便利だという声をもらっています
また、異動したての社員もチェックを通じて学習できますので、教育ツールとしても可能性を感じています

渡邉氏:

現場の営業担当者から喜ばれているのがモバイル対応です。以前のシステムはPCでしか閲覧できませんでしたが、新システムはスマートフォンやタブレットでも快適に動作します。
これにより、外出先で仲介会社様から物件を紹介された際、その場で社内の検討状況や重複案件の有無を即座に確認できるようになりました。
「その件は今〇〇部で動いています」「これはすぐに進めましょう」と、その場でレスポンスができるようになったことにより、機会損失を防ぎながら仲介会社様との信頼関係を築くといった非常に大きな効果を生んでいます。

岩本氏:

登記情報の取得機能への反応も上々ですね。これまでは法務局のサイトなどで一筆ごとに取得していた登記情報を、地図上でエリアを囲むだけで一括取得できるようになりました。
また、所有者の異動情報を自動検知できるため、エリア内の地権者様の動きや相続の発生などをタイムリーに把握できるようになりました。
「古の時代から続いていた煩雑な手作業がなくなったよ」と、ベテラン社員からも感動の声が上がっています。

――今後の地図DXの拡張構想について教えてください。

村西氏:

当面は、社内に蓄積された過去の取引データや建設コスト情報などをさらに深く連携させていくことを検討しています。
その先の構想として考えているのは、生成AIとの融合です。
例えば、このエリアでこういう条件の土地はないか?と自然言語で問いかけると、過去の提案履歴やマーケットデータ、現在の所有者情報をAIが分析し「この土地にはオフィス需要があります。過去に〇〇様から提案を受けた経緯がありますので再アプローチをお勧めします」など、人間が発見しにくい気づきを提案してくれるようなユースケースを実現したいですね。

――今後のビジョンとゼンリンへの期待をお聞かせください。

渡邉氏:

我々が目指すのは、単にシステムを便利にすることだけではありません。仲介会社様や地権者様から「東急不動産に相談すれば、一番早く最適な答えを出してくれる」と信頼される存在になることです。

そのためには、渋谷をはじめとする重点エリアの情報を、地図をベースに誰よりも深く把握しておく必要があります。
ゼンリンさんの正確な地図データと柔軟な開発力は、その基盤として欠かせないものです。

村西氏:

我々はDXにおいても先進的な取り組みを発信し続け、業界全体をリードする存在でありたいと考えています。
ゼンリンさんには、単なるベンダーの枠を越え、我々の地図DXプロジェクトを共に進化させていくパートナーとして今後も技術的な支援と新しい提案を期待しています。

不動産開発における情報の鮮度と検討のスピードは、事業の成否を分ける重要な要素です。
東急不動産ホールディングス様は、ゼンリンのZENRIN Maps APIを導入し、地図を単なる確認ツールから、高度な分析と意思決定を行うための統合プラットフォームへと進化させました。
AIによる建築シミュレーションやマーケットデータの統合、そしてモバイル活用による現場力の強化。これらを実現した背景には、渋谷というフィールドを深く理解し、最適な価値を提供し続けようとする同社の強い意志がありました。
高精度な地図データを基点に広がる地図DXの可能性。それは、不動産業界の働き方や、街づくりのあり方そのものを変革していく力を秘めています。

ゼンリン担当者

インフラソリューション事業本部 インフラソリューション営業一部 営業二課 副長
角南 比奈子(すなみ ひなこ)

コメント:
今回のプロジェクトは、東急不動産ホールディングス様にとって基幹システム級の重要な取り組みであり、私個人としても、ここまでの規模感でのシステム開発に携わらせていただくのは初めての経験でした。
「先進的な地図DXを実現したい」という、村西様をはじめとする皆様の熱い想いを受け「どうすればそれを形にできるか」という問いへの答えを技術部門と共に日々模索し続けました。至らない点もありましたが、課題が上がるたびに皆様と何度も協議を重ね、このような形にたどり着くことができたと感じております。
社内でも「東急不動産様で新しい地図活用が始まっている」と大きな反響を呼んでおり、私たちにとっても大きな成長の機会となりました。
今後も、さらに使いやすく価値のあるプラットフォームへと進化させていけるよう、継続的にご支援させていただければと考えております。

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