暮らしに必要な情報をデジタル地図上で可視化し「来庁が不要な行政サービス」・「スマート自治体」の実現へ

情報管理ツールの一元管理で市民生活の安全・安心を守る!

デジタルを活用した社会変革を目指すDX。近年多くの企業が取り組むなか、自治体でも同様の動きが広まっています。2021年(令和3年)6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されたことで、各自治体ではその実現に向け、新たにDXを推進する部門が設置されるなど、動きが加速しています。

こうしたなか福島県伊達市では、市が保有する行政データをデジタル地図で可視化するべく、Web総合マップを公開。また、冊子版で作成していた防災マップのWeb版も公開。最新の情報を迅速かつわかりやすく発信できる体制を整えています。今回は、福島県伊達市でDXを担当する総務部 デジタル変革課の岡崎 祐様、佐藤 喜也様と、市民生活部 防災危機管理課の大波 哲也様、山田 昌史様に、導入の経緯や決め手、運用の手応えなどを伺います。
以下、敬称を省略させていただきます

「Web総合マップ/Webハザードマップ/ゼンリン住宅地図 LGWAN」
導入効果

行政データをデジタル地図上に可視化することで、市民にわかりやすい情報公開を実現

公共施設などのくらしに役立つ情報や都市計画などの情報をいつでもどこでもパソコンやスマートフォン・タブレット端末で閲覧できるので「来庁が不要な行政サービス」の実現に貢献

防災情報もWebハザードマップ上で定期的に更新することで、市民の防災意識向上に
大きく貢献

福島県伊達市は、2006年(平成18年)に旧伊達郡の伊達町、梁川町、保原町、霊山町、月舘町の5町が合併して誕生した人口約55,000人の市です。中通り北部に位置し、東に名峰霊山がそびえ、西には阿武隈川が流れる自然に恵まれた地域で、あんぽ柿や桃などの果樹栽培が盛んな地域として知られています。近年は子育て支援に注力しており、担当保健師が妊娠期から子育てを一貫して切れ目のない支援をする「ネウボラ」を導入するなど、特色のある施策に取り組んでいます。

そんな福島県伊達市では、自治体DX推進計画の策定を機に、2022年に従来の情報システム部門へ新たにDX推進部門を加える形でデジタル変革課を新設。高齢化社会や少子化の影響により、人口減少が進むなか、地域社会の持続やこれまでと同等の自治体サービスの維持を目的に庁内のDX推進に取り組んでいます。

行政データの可視化と「来庁が不要な行政サービス」実現が契機に

―― 伊達市ではDXに向けて現状どのように取り組んでいるのでしょうか。

総務部デジタル変革課  課長 岡崎 祐氏

岡崎:

DXにあたって、自治体サービスも顧客視点での見直しが求められています。とくに最近ではマイナンバーカードを軸とした「書かない窓口」を導入したほか、オンライン申請や行政データの見える化にも取り組んでいます。

こうした取り組みを実施していくなかで、本市から定期発信する情報や保有する行政データについてもわかりやすく可視化し、市民や企業が活用しやすい形で提供していくことが重要であると考え、行政データをデジタル地図上で可視化し、わかりやすく把握できる環境を整備すべく、ゼンリンのWeb総合マップを活用した「伊達なデジタルなび」を構築しました。

これまでこうした行政データを可視化した網羅的な公開型地図情報サイトは存在せず、都市計画図や学区図、防災マップなど、用途ごとに作られた個別の地図を入手・閲覧するため、市民や企業は庁舎窓口へお越しいただく必要がありました。

―― Web総合マップの導入に至った経緯を教えてください。

総務部デジタル変革課 副主幹兼DX推進係長 佐藤 喜也氏

佐藤:

導入のきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大です。感染拡大に合わせて対面業務の見直しが急務となり、窓口の混雑緩和や「来庁が不要な行政サービス」の実現に向けて試行錯誤しました。

そうしたなか、行政データをよりわかりやすく提供する手段として、デジタル地図を使って利用者へ情報発信する新たな基盤が求められました。そうしてさまざまな行政データを網羅的に可視化できるWeb総合マップの整備に至りました。

Web総合マップを公開することで、幅広い分野の行政データをリアルタイムで確認できるほか、スマートフォンがあれば自宅からも把握できるため、「来庁が不要な行政サービス」の実現にも貢献しています。

定期更新によるタイムリーな情報発信には、公開型地図情報サイトが必要

―― Web総合マップの構築後、Webハザードマップの導入に至った経緯を教えてください。

佐藤:

Web総合マップでは健康・福祉、産業、くらし、市政・まちづくり、子育て・教育、観光の分野で、公共施設をはじめとした幅広い情報を公開しています。そうしたなかで、防災分野でも公開型地図情報サイトでの情報発信を検討していました。

防災分野は指定緊急避難場所のほか、福祉避難所や防災無線、排水ポンプ場、河川カメラ、水位計など、発信する情報が多いことから、Web総合マップと連携したWebハザードマップを構築するのがよいのではないかと考えました。そこで防災危機管理課と相談しました。

山田:

防災危機管理課では、これまでも冊子版で防災マップを作成していました。近年の水防法改正により、これまで洪水浸水想定区域が公表されていない中小河川でも、浸水想定区域を設定する動きが出てきました。本市内でも3つの河川で新たに洪水浸水想定区域が公表されました。

近年の動向を踏まえると、今後も中小河川で洪水浸水想定区域の公表が続くことが予想され、その都度、冊子版で防災マップを作成するのは現実的ではありません。冊子版の作成には相応の費用が発生し、新たなハザードエリアの周知に迅速に対応できないという課題がありました。

そこでWeb上で防災マップが閲覧できるWebハザードマップを構築することにしました。Webハザードマップの導入により、本市職員が緊急避難場所などのポイント情報をゼンリン住宅地図 LGWANでメンテナンス後、アップロード機能を利用して、タイムリーな情報公開が可能となり、市民は最新情報を収集できるようになりました。

洪水災害で高まる防災意識と求められる新たな運用

―― Web総合マップと連携したWebハザードマップを構築したところに防災意識の高さを感じます。どういった背景があるのでしょうか。

市民生活部防災危機管理課 課長兼放射能相談センター長 大波 哲也氏

大波:

地理的背景から歴史上長く洪水の被害を受けてきました。市内の梁川地区は、阿武隈川の下流に位置し、広瀬川、塩野川、東根川が合流するため、洪水の被害が度々発生していました。近年も令和元年 東日本台風(台風第19号)で広大な範囲で被害が発生しました。

防災計画は策定されていたものの、運用が十分機能しなかったことを受け、その後の計画改訂では運用に関わる改善を図っています。例えば、従来は防災無線で避難を呼びかけていましたが、大雨の際には聞き取りにくいなどの課題がありました。そこで市民への新たな情報提供手段として防災アプリを開発し、市民のスマートフォンへプッシュ型でお知らせできるよう整備しました。

加えてWebハザードマップでは、国や県などが管理する河川カメラや水位計などの情報も公開したほか、令和元年 東日本台風の浸水実績なども閲覧できるようにしました。

市民生活部防災危機管理課 副主幹兼危機管理係長 山田 昌史氏

山田:

本市内には多くの河川があり、その流域に集落が広がっているため、河川の浸水リスクを抱える地域となっています。そのため、市民の防災意識を高めるとともに、ハザード情報の見える化を通じて、どこにどのようなリスクがあるか、市民に把握してもらう必要があります。

Webハザードマップを活用することで、いつでもどこでもハザード情報を確認できるので利便性が高まったほか、市民が自らハザードリスクの低い地域を把握して避難計画を検討できるのではないかと期待しています。

スマートフォンでの現在地を中心とした地図表示、蓄積してきたデータの有効活用、オープンデータの整備が導入の決め手に

―― Web総合マップ・Webハザードマップの導入にあたって決め手となった点を教えてください。

佐藤:

1つはスマートフォンのGPS機能との連携です。市民との接点としてスマートフォンの位置付けがより重要になってきています。そのなかで、スマートフォンのGPS機能と連携することで、現在地を中心に地図が表示されるので、周辺の公共施設や観光スポットなどを体感的に把握しやすくなります。

Webハザードマップでもレイヤを選択して、災害種別ごとに危険な箇所を可視化できるので、例えば自宅周辺にはどのようなハザードエリアがあり、リスクが低い避難先はどこか、といった確認ができます。スマートフォンやタブレット端末端末でも見やすいデザインで、地図の縮尺を任意に拡大縮小でき、いつでもどこでも確認できるなど、利便性が高いことも大きな決め手になりました。

加えて、庁内業務用としてゼンリン住宅地図 LGWAN(以下、住宅地図 LGWAN)を導入していたことも背景にあります。庁内ではCD-ROM版の住宅地図(デジタウン)を以前から利用していました。表札情報まで掲載されている住宅地図は業務で利用しやすく、多くの部署で採用されていました。

住宅地図 LGWANは、デジタウンへ登録してきたユーザーデータを移行し、LGWAN環境下で継続利用できます。これまで蓄積してきたデータを有効活用し、オープンデータを整備できる点も採用の決め手になりました。さらに本市職員が住宅地図 LGWANでポイント情報等をメンテナンスし、Web総合マップ及びWebハザードマップへの情報公開が容易にできる点も導入のポイントになりました。

各部署での中長期的な活用を見越して、基盤となる庁内の情報管理ツールとして住宅地図 LGWANを先行導入し、その後、Web総合マップ及びWebハザードマップの導入に至りました。

市民だけでなく本市職員にも活用を促す

―― 導入後の効果や手応えはいかがですか?

大波:

河川の浸水想定区域は不動産取引等の重要事項説明で不動産業者などが多く利用します。電話では具体的な場所を特定しづらいため、庁舎までお越しいただく必要がありました。Webハザードマップの導入により、来庁不要でWeb上で確認していただけるだけでなく、窓口対応時間が削減されるなど、担当職員の業務効率化にもつながっています。

岡崎:

利用者アンケートを実施していますが、利用満足度が高いことが分かりました。加えて、Webハザードマップのアクセス数が多いことも確認できています。

庁舎窓口でタブレット端末を使って市民とWeb総合マップの画面を共有しながら説明することで、市民の活用促進を図れるだけでなく、従来よりもわかりやすい説明にもつながっています。Web総合マップを導入したことで、市民により身近なものとして活用いただけるよう、引続き市民全体に行き届くよう広報周知を図っていきたいと考えています。

―― 今後の展望をご教示ください。

佐藤:

Web総合マップ及びWebハザードマップが良い形で構築できたので、市民の皆さまにも浸透させていきたいです。市が主催する高齢者向けスマートフォン勉強会での周知や、スマートフォンの利用をサポートするサポーターの皆さまにも紹介していきます。こうしたさまざまな機会を通じて、より活用いただけるよう発信していきたいです。

また、本市職員にも情報発信の重要性を認識してもらう必要があります。情報の更新や新たな発信などをデジタル地図に反映してもらうため、庁内での啓蒙にも取り組んでいきたいです。

今回ご紹介したWeb総合マップ・Webハザードマップはこちら

自治体関連お問い合わせ

同じ業種の他商品事例・実績