空家調査で「資源」を見える化

日本全国で空家の増加が問題となるなか、北海道の本別町は、空家を高齢者の住み替え先として有効活用する新しい試みを始めた。地図情報会社のゼンリンと連携し、空家の実態調査を行ったことが、事業推進の基盤となっている。

空家活用による「福祉でまちづくり」

北海道、十勝平野の東北部に位置する本別町。農業や酪農が盛んな人口約7400人の小さな町は、全国に先駆けて、福祉の観点から空家の利活用を進めている。町内の空家を地域の資源と捉えて、空家所有者に改修を促し、住み替えを希望する高齢者に低価格の賃貸住宅として貸し出すという試みだ。例えば、農村部に住んでいた高齢者が、より生活利便性が高く福祉施設も多い中心市街地の空家に住み替えをする、といった事例が生まれている。

この取り組みは、本別町の推進する「福祉でまちづくり」の一環だ。過疎化と高齢化が進む本別町は、町民参加で福祉を推進するために2006年に福祉でまちづくり宣言を行い、町民共助の意識の醸成や、高齢者の法人後見や生活自立支援をおこなう「あんしんサポートセンター」の開設などに取り組んできた。

「こうした中で、家が老朽化し住み替えを余儀なくされる高齢者の存在が浮かび上がってきました。本別町は冬場に最低気温がマイナス30℃になることもあり、住まいの問題は高齢者の命に直結します。公営住宅の提供に加えて、町内の空家を資源として捉え、住み替えに有効活用するアイデアが生まれました」と本別町総合ケアセンターの高齢者福祉担当主査、木南孝幸氏は言う。

空家情報を一元化し、最適管理

空家活用による住み替え支援が本格化したのは、町独自に空家の実態調査を行ったことが契機だった。「住み替え支援は数年前から取り組み、町民にも好評でしたが、町で空家所有者を探し、リノベーションや家賃について交渉するというプロセスには手間がかかります。住み替えを個別対応ではなくシステムとして運用するには、空家情報を一元化して最適管理する必要があると考えました」。そこで本別町は2014年度に厚生労働省の「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」の採択を受け、空家データベースの構築を進めてきた。

この事業では地図情報会社のゼンリンが全面的に協力した。ゼンリンは家一軒一軒の表札情報を網羅する住宅地図を唯一全国規模で製作する企業であり、1日約1000人のスタッフが歩いて現地調査を含めた情報収集を行っている。

木南氏は「ゼンリンは地図づくりやデータベース構築で多くの実績とノウハウを保有しており、全国の空家情報も収集されています。このため、ゼンリンと一緒に取り組むことで、ゼロからローラー調査をせず必要な部分の調査実施で、精度の高い空家データベースを時間とコストを削減して構築できると考えました」と話す。

実態調査はこれまでに1次~3次を実施している。1次調査ではゼンリンの住宅地図を使いながら、自治会長や民生委員に地域の空家情報を自治体へ提供してもらった。その結果をもとに、2次調査ではゼンリン調査員が空家の外観を含めて現地調査を行った。空家の構造や危険箇所等の管理状態、利活用の可能性がある空家の概数などを調べ、空家台帳にまとめ、パソコンのゼンリン住宅地図上に台帳や写真を表示できるようにした。

「空家の状況は刻一刻と変化するので、ゼンリンに定期的な調査をお願いし、台帳情報を更新していきます。今回のシステムは空家の写真を閲覧できるため、家屋状況の悪化や改善が把握でき、次の手が打ちやすくなりました。また、空家情報があるおかげで、大雪時に倒壊リスクのある物件を優先的に見回りするなど、災害対応の迅速化にも役立っています」

自治体単独では難しい空家の全件把握

2015年に施行された空家対策特別措置法で、空家に関する対策計画の策定や実施が市町村の責務として定められた。特措法により、固定資産税の課税記録を用いて物件所有者の特定ができるようになったが、それでも「自治体単独で、空家を全件把握することは非常に難しい」と木南氏は指摘する。

空家情報は自治体内の防災、環境、自治振興、総務などの多くの部署に散在しており、その数値も正しいとは限らない。実際に本別町の場合、消防で約100件の空家を把握していたが、ゼンリンの調査で約370件にのぼることが明らかになったという。

「やはり、空家情報を閲覧・管理できる仕組みづくりがポイントだと思います。その際は民間との連携が重要です」と木南氏は強調する。

「民間と連携することで、人的・金銭的なコストを抑えられるだけでなく、調査の質向上にもつながります。例えば現地調査は、行政職員だけでは空家の客観的な調査項目をつくること自体難しかったと思います。また、ゼンリンには空家だけでなく、倉庫や空地の管理状態についても集約してもらいましたが、それも地図会社ならではの情報やノウハウがあったからこそ実現できたこと。冬場の過酷な環境にも関わらず、調査員には期間内にしっかりと、沢山のデータを集めてもらいました」

本別町の3次調査では、ゼンリンに加えて日本不動産研究所が参加、町独自の空家の判定基準を策定し、町内の空家の管理状態をランク付けした。同時に、空家所有者に対して管理状況や利活用についての意向調査も行い、利用可能な空家を抽出した。

「詳細な実態調査によって、活用できる空家や取り壊しに向けて所有者と協議すべき空家が明確になりました。また、空家所有者は高齢の方が多く、処分したくても情報が少ないなど、維持管理に苦慮されていることもわかりました。正確な情報を把握できたことで、次の施策にも繋げやすくなったと思います」と木南氏は調査の手応えを語る。

「本年度は4次、5次調査として、利活用可能な物件の内覧調査や、住み替え希望者へのニーズ調査を実施する予定です。 貸し手、借り手双方の情報を整備して、マッチングを促進していきます。高齢者や生活困窮者にとって費用負担が極力少ない方法で、空家を供給できる仕組みをつくりたいと考えています。そのためには家賃補助制度などの新しい仕組みも必要かもしれません。役場内の連携を深め、また住民や民間事業者とも議論をしながら、空家活用と福祉でまちづくりを推進していきます」

観光や移住にも空家を活用へ

本別町は、空家を高齢者の住み替え支援だけにとどまらず、移住促進や観光振興にも役立てていく方針だ。

移住促進は隣接する足寄町、陸別町と連携しており、本年3月に「とかち東北部3町地域連携ビジョン」をまとめた。空家をまちづくりの有効資源と位置づけ、移住希望者の住まいに活用する。先行する本別町をモデルに、足寄町と陸別町でも空家実態調査を進め、3町が連携した空家データベースを構築。ここではゼンリンと日本不動産研究所が支援をしている。

さらに、3町の求人情報ともシステムを連携して、移住者の「暮らし」と「仕事」を全面的に支えるプラットフォームを整備する。また、3町による「とかち東北部移住サポートセンター」の設立や「移住アドバイザー」配置によって、相談窓口の一元化や東京圏等へのプロモーションの一体化を進める。3町の資源を持ち寄ったり、スケールメリットを出したりすることで、効率的・効果な移住促進を図っていく。こうした広域連携は、全国の自治体でも先進的な取り組みである。

「空家を負の財産としてではなく、正の財産、地域資源として活用していきたい」と木南氏は語る。そのためにはまず、官民連携で空家の実態調査を行うことが大切だ。

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