属人化からの脱却――建物情報でつながるデータ基盤の連携と可能性
誰もがその名を知るような企業でも、情報連携の難しさや属人化といった課題は常に横たわっています。こうした課題に対し、営業デジタルトランスフォーメーション(営業DX)に取り組む事例は主流になってきました。
東京スカイツリーに代表されるランドマーク施設のライトアップからオフィスビルの照明機器まで、全国に広がる販路と圧倒的な商品力を強みに成長を続ける、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社(以下、EW社)も直販や代理店経由の複雑な流通構造のもとで、製品の納入先や設備情報の一元把握、部門横断でのデータ連携に課題を抱えていました。
そこでEW社は、取引先と建物の情報をまとめて管理できる「建設業顧客データベース(CCD)」を構築しました。共通IDで社内のどの部署からも同じ情報を見られるようにし、建物情報を外部から取得する仕組みとして「ZENRIN Maps API」を活用しています。
今回は、導入を担ったマーケティング本部 ビジネスアーキテクトセンター システム開発グループの喜田様と田原様に、採用の狙いと効果、今後の展望を伺いました。
課題
- マスターデータが管理されておらず、非効率な営業活動を行っていた
- 最終納入先である施設(建物)情報の把握が困難
- 社内リソースだけでは施設の特定作業が困難
ご提案内容
施設データの管理をスムーズにし、情報の重複や間違いを防ぐため、システムを連携させ(API連携)、建物やテナントの検索(名称・座標)および住所データの正規化、建物固有の識別ID(ZID)の利用を可能に
導入効果
- 施設の特定作業の工数が最大9割削減
- 部門横断的なデータ共有が可能となり、データを活用した提案営業も実現
導入企業様
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
マーケティング本部 ビジネスアーキテクトセンター システム開発グループ
喜田 雅春 様
田原 永典 様
- 【所在地】
-
東京都港区東新橋一丁目5番1号
- 【資本金】
-
非公開
- 【従業員数】
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約3万人
- 【事業内容】
-
電設資材・照明・エネルギーソリューションを中心に事業を展開
※2026年4月にパナソニックエレクトリックワークス株式会社として独立予定
導入ソリューション
背景・課題
国内電設資材で最大級の販売網――市場の6割を網羅
――まず御社の事業内容について教えてください。
- 田原氏:
-
EW社は旧松下電工からの流れを汲む、主に照明器具や配線器具など、ビルや住宅に使われる電気設備の製造販売をしている会社です。
建設業界全体に対して、設備工事を伴う市場が大体4分の1。このうち電気工事といわれるのが大体11兆円で、いわゆる電材業界と呼ばれる材料の部分の市場規模が3兆円ぐらいです。そのうちの1.8兆円、大体6割を当社の代理店が占めており、半分超の市場のカバレッジを持っているのが特徴になります。
――お二人はどのような業務を担当されているのですか。
- 田原氏:
-
マーケティング本部直下の組織としてビジネスアーキテクトセンター(BAセンター)がありますが、ここは2020年に営業プロセスを革新する部署として立ち上がりました。
現在は営業企画からSalesforce(※注1)のシステム運用まで広くカバーする組織体であり、変革をドライブ、加速する「Catalyst(触媒)」となるのをミッションとして掲げています。例えるならBAセンターは全身にくまなく張り巡らされている「神経」の役割を担っています。
その中で私と喜田が所属しているのが、データの統合・整備を行うシステム開発グループになります。
※注1=クラウド上で顧客情報を一元管理し、営業・カスタマーサービス・マーケティングなどを効率化するCRM(顧客関係管理)プラットフォーム
DX推進における「データの負の連鎖」
――営業DXを進める中でどのような課題があったのでしょうか。
- 田原氏:
-
Salesforce導入当初の話をしますと、営業DXの根幹であるデータが現場入力、基幹システム、外部データなど混在していた上、Salesforceを導入してもルールや目的がないため蓄積されず、集まったデータも重複しており不正確。結果的に活用できず、目的も曖昧。
負のスパイラルの嵐、そんな状態でした。
- 喜田氏:
-
私たちももちろん知見が全然ないし、人もいなかった。こうすればいいというイメージはあるが、それを説得する、落とし込むだけのパワーもエネルギーもなかった。特に取引先のマスターを管理する人間は、誰ひとりいなかったのです。
- 田原氏:
-
そこでまずはその負の連鎖を絶ちましょうということで、3つのチームを立ち上げました。
BPR推進チームでは、データをどんなふうに活用したら良くなるかという成功事例を展開して、データを蓄積してもらい、デジタルマーケティングチームではデータの活用の形を可視化するところからスタートしました。
システム開発チームでは、データガバナンスを強化するために権限を一極に集中させて、MDM(マスターデータマネジメント)の機能を集約してデータの門番となりました。
そこで課題になったのが、やはりデータの重複や不整合の問題でした。
導入経緯・効果
施設情報をマスターとする必然性
――「ZENRIN Maps API」の建物情報を利用した経緯を教えてください。
- 喜田氏:
-
当社のマスターは、「取引先」の顧客情報と「施設」と呼んでいる建物情報の2つの軸を持っています。それを中心にCRMを回しています。
このマスターを管理しているのが建設業顧客データベース(CCD)です。
案件情報や納入品といった情報を、CRM上で取引先や施設名で検索し、特定した施設情報に紐づける運用を想定していました。
それぞれマスター管理しているのは、取引先である建物のオーナーが変わろうが、当社の商品はその建物にあるので、トレーサビリティの観点からも建物の特定が大事になりました。ただ、建物情報を当社だけで整備できないのは明らかなため、やはりどこかの力を借りて整備していきたいと思っていました。
地図といえばゼンリンさんでしたが、当社は地図が欲しいわけではなかった。
そこで「ZENRIN Maps API」というサービスが提供されていることを知り、望むものに近かったので、検討させていただきました。
- 田原氏:
-
他社もいろいろ比較はさせていただきました。ただ、決め手となったのは、そのカバー率と正確性ですね。
当社は住宅ではないところをメインターゲットとしていますので、そこのデータがある程度あるのと、テナントがあるところも良かったです。
従前の顧客情報データベースの仕組み構築と従後の『建設業顧客データベース(通称CCD)』
従来は各社が異なるルールで管理していたためデータにばらつきがあったが、CCD導入後はマスター管理の専任チームがマスターの集中管理を行うことで、個社ごとのメンテナンス工数が大幅削減。さらに鮮度の高いデータが共有されるように。
施設特定の工数を最大9割削減。データ品質向上と業務効率化の両立
――導入後の効果はいかがでしたか。
- 喜田氏:
-
建物の特定作業はとても楽になり、導入前より位置の精度に自信が持てるようになりました。
工数も特定作業のみに特化すると8割から9割減になりました。
当社は案件に携わる人が多いので、施設基軸で、既存データの重複が見えるようになり、子会社間で違う会社が推進している姿も見えるようになりました。そこから共同で案件を進める動きも生まれています。
過去の案件履歴を簡単に参照できるようになったことで、例えば、管理会社単位で古いマンションを集めて相談していくといったアプローチも可能になってきています。
- 田原氏:
-
マンションデータを他社から購入し、APIでマッチングを行った結果、マンションのカバー率が高まり、当社が関わっている案件をエリアごとに可視化できるようになりました。
これにより「この地区を重点的に攻めよう」といったホワイトスペースの発見にもつながっています。また、修理情報と施設を紐づけることにより、修理が難しい品番については事前にお客様へ通知を出すなど、より効率的に丁寧な提案営業対応も可能になりました。
さらに、部門を越えたデータの共有により、お客様の相談窓口の部門(相談センター)と営業部門が同じプラットフォーム上で情報をやり取りできるようになっています。
施設に関しても年間400件ほどの紐づけが行えるようになり、データの積み上げによる付随効果も大きいと感じています。
スピード感と検索性への更なる要望
――ゼンリンへの期待という部分はいかがですか。
- 田原氏:
-
建物は、特に新築の場合は当社の情報が早かったりします。そうなると(ゼンリンの)調査員が行く時まで待てないです。
なので、申請も出ていて、公知の事実になっているという事実が掴めるのであれば、ぜひ早く情報を登録してほしいです。
- 喜田氏:
-
あと離島とか郡部の情報の更新頻度を上げてほしいです。
Google MAPで確認できるのに、ゼンリンさんのAPIにはない。そこのスピード感はもっと上げてほしいなと思います。
調査員が現場で見て確認するというポリシーにはとても賛同するけれども、ちょっと時代遅れなところがあると思う。
- 田原氏:
-
あいまい検索にも早く対応してほしいです。今は完全一致じゃないとヒットしないです。漢字や数字が違っていても「これですか?」って提案してほしい。少なくともGoogleと肩を並べるぐらいまでいってほしいです。
まあ、そこまで当社が細かくゼンリンさんのAPIを使っている、ということですね。
今後について・展望
未来の営業に向けたデータ蓄積
――Salesforce 全国活用チャンピオン大会(SFUG CUP 2025)で準優勝されました。この中で「データの力で変革する営業の未来」という発表もされました。今後の展開について、お聞かせください。
- 喜田氏:
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CCDのつなぎ先ももっと増やそうとしています。
特にグループ会社や連結会社は、データ管理に関して同じ悩みを持っていることが多いため、「いいものがありそうだぞ」というところで一緒にやってデータを集めていきたいという声も多くいただいています。
社内でも現在は一部の先進的な方々が使ってくれている段階ですが、次のステージでは、会社をあげて、あるいは仕組みに強制力を働かせたりして、もっとデータ活用や情報収集を推進していきたいと考えています。
サービス員が現地に行くときに、施設IDをキーに修理した履歴が全てマスターに入っていて、それが活用できるといった世界を実現できれば、建物データももっと増えてくるでしょう。
- 田原氏:
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連結会社はリソースが確保できない状態にありますが、親会社がこのような仕組みを作るのは非常にウェルカムな状態です。
この仕組みがよくできていて、運用が継続して回っているというところが、各社が乗ってきてくれる理由のひとつだろうと思っています。また、AgentforceのようなAIが使えるデータというのは、まさにきれいなデータしか使えないので、ある程度整った構造化されたデータを整備する必要があり、このCCDがマスターを担保することによって実現します。
今後もAIも利用可能な取引先も施設も一意なデータになることを目指して、整えていきたいです。
――CCD整備はいわば広大な図書館に散らばっていた膨大な情報に、正確な目録を付与する作業。
ゼンリンが持つ建物の位置情報が、この目録作成において不可欠なツールとして機能しました。
可視化された地図だけでなく、正確な位置情報も営業変革を支えるデータになりうるというお話が聞けてよかったと思います。
本日はありがとうございました。