少人数でも挑める、農業土木DXの最前線―点群データ活用と現場改革

建設業界では、ICT施工の普及に伴い、点群データの活用が急速に広がっています。しかし、点群データの処理には高性能なPCと専用ソフトが必要であり、手動でのノイズ除去や分類作業には膨大な時間がかかります。とくに少人数で運営する地場の建設企業にとって、ソフトウェアライセンスの確保やPC性能の制約は、点群活用の大きな障壁となるのです。

こぶし建設株式会社様は、北海道の空知・石狩地区を中心に、道路や河川工事に加え、水路整備や圃場整備といった農業土木工事を手がける建設企業です。2018年からICT活用を開始し、複数の特化型ソフトを組み合わせる独自の運用方針で高効率な施工を実現してきました。しかし、点群処理においては、ライセンス不足による同時作業の制限や、手動分類作業の属人化、処理中のPC占有といった課題を抱えていました。

こうした課題を解決するため、同社はクラウド型点群処理サービス「ScanX」を導入。AIによる点群の自動クラス分類により、従来半日かかっていた点群の分類作業が約1時間に短縮されました。さらに、クラウド処理によりPCの占有問題が解消され、経験の浅い社員でも作業に取り組みやすくなるなど、業務効率の改善が進んでいます。約1年間の試験運用を経て、来年度からの本格展開を予定しています。

今回は、同社のICT活用と「ScanX」導入の経緯について、こぶし建設株式会社 取締役、営業部長兼技術管理部長の和田淳様、総務部長の野村淳様、技術管理部次長の長浦卓己様、同部の曽我部陵太様にお話を伺いました。

課題

  • 点群処理ソフトが高価でライセンス数が限られ、同時作業が難しい
  • 手動での点群分類作業に半日〜1日かかり、熟練者に依存して属人化が進行
  • 土量計測用と障害物検出用で点群の用途が異なり、用途ごとに最初から再処理が必要
  • 処理中は高性能PCが長時間占有され、他の業務と並行できない
  • 既存のクラウド共有サービスでは約1GBの点群を約30MBまで間引く必要があり、共有に手間とデータ損失リスクがある

ご提案内容

  • クラウド型点群処理サービス「ScanX」の導入
  • AI自動分類機能により、地面・電線・建物・車両などを自動で認識・分類
  • クラウド処理でローカルPCの負荷を解消し、処理中も他業務と並行可能に
  • ドローン点群をそのままアップロードでき、間引き作業が不要
  • BIM/CIMデータとの重畳機能による土量算定・障害物検出にも活用

導入効果

  • 手動分類作業が半日から約1時間に短縮(河川延長約500mの起工測量ケース)
  • クラウド処理によりPC占有が解消され、業務の並行性が大幅に向上
  • 非熟練者でもアップロードするだけで分類が可能になり、属人化を解消
  • 地面と非地面の自動分離により、用途別の再処理が不要に
  • 点群データの間引き作業が不要になり、データ共有の効率が向上

導入企業様

こぶし建設株式会社

写真左から、野村様、曽我部様、長浦様、和田様

取締役、営業部長兼技術管理部長
和田 淳 様
総務部長
野村 淳 様
技術管理部次長
長浦 卓己 様
技術管理部
曽我部 陵太 様

【所在地】

北海道岩見沢市志文町966番地15

【資本金】

8千万円

【従業員数】

57名(2025年5月1日現在)

【事業内容】

土木建築等建設工事の請負。建設工事に関する調査、企画、地質調査、測量、設計、監理、マネジメントおよびコンサルティング業務。不動産の売買、賃貸、仲介、管理および鑑定。住宅等建物の建設、販売、賃貸および管理並びに土地の造成および販売。

農業土木を軸に、特化型ソフトの組み合わせで少人数体制を最大化

――まずは御社の事業について教えてください。

和田氏:

当社は北海道の空知地域を拠点に、主に農業土木を得意とする建設会社です。水路の整備や圃場整備工事など、稲作地帯のインフラを支える公共工事を請け負っています。最近では、古い区画を広げて効率化する大規模区画整備工事が増加しており、効率的な農業を実現するための整備を進めています。

――御社におけるICTの活用について現状をお聞かせください。

長浦氏:

当社は2018(平成30)年からICTの導入準備を行い、同年受注した農業用水路工事で初めてICTを活用した情報化施工を実施しています。当時はドローンを活用したUAVと、地上型レーザースキャナー(TLS)を使用して現況の点群データを取得しましたが、取得した点群から現況横断図を作成する程度の活用方法でした。

ICTを導入してしばらくは、工事の数量算出を行うための現況測量と出来形管理時のみ点群計測を行っていました。ですが、近年では必要土量や進捗を確認するため施工中に点群計測を行う機会が増え、その分点群処理に割ける時間が限られ、効率化が課題となっています。

――ICT活用について、御社は複数のツールを併用されていると伺いましたが、どのように活用されているのでしょうか。

長浦氏:

当社では、1つの統合型ソフトですべてを賄うのではなく、各分野に特化したソフトを複数社分導入して、それぞれの得意分野を組み合わせて使っています。AutoCAD系だけでは難しい作業も得意なソフトを選べば効率的ですし、少人数体制だからこそ可能な運用です。

それに、1つのソフトだけを使っていると、そのソフトの利点も弱点もわかりません。複数のものを使っているからこそ「ここは改善した方がいい」と各メーカーに具体的な改善要望も伝えやすいと感じています。

高価なライセンスとPC性能の制約が点群活用の壁に

――点群データの処理において、どのような課題を抱えていましたか。

長浦氏:

処理にあたれる人数の制約と作業の属人化が課題でした。点群を扱うソフトは非常に高価です。ソフト自体もそうですし、動作に必要なPCの性能要件も高くなります。そのため全員に環境を揃えるのは現実的ではありません。 各メーカーのソフトを購入しても、同時に作業できる人数は限られます。繁忙期にはソフトの取り合いになってしまうこともありました。

さらに、手動での点群分類作業も大きな課題でした。ノイズ除去や地表面と非地表面の分類に、熟練者でも半日はかかります。 慣れない人だと1日やっても綺麗に処理できませんし、余計なところまで消してしまって、最初からやり直しになるケースも頻繁にありました。 結局、慣れた人に作業が集中してしまい、属人化が進んでいたのです。

――用途によっても処理の手間が異なると伺いました。

長浦氏:

はい。 土量を計測するための点群と、障害物を検出するための点群では、必要なデータがまったく異なります。土量計測には地表面のデータだけが必要ですし、障害物検出では電線や構造物のデータが必要になります。従来は、同じ点群データであっても用途ごとに最初から処理し直す必要があり、二重の作業が発生していました。

AI自動分類の精度と手頃な価格がScanX導入の決め手に

――ScanXを導入いただいた経緯を教えてください。

長浦氏:

ゼンリンの営業担当者から提案を受け、現場で実際にScanXの動作を自分たちで確認したのがきっかけです。 価格も許容範囲内でした。

――他のツールと比較して、どのような点が採用の決め手になりましたか。

自動クラス分類を実施した状態。オレンジが建物、青が車両、ピンクが電線のように自動で分類する。

長浦氏:

最大の決め手は、AIによる自動クラス分類機能です。 地表面や電線、建物、車両といった種別を自動で認識・分類してくれます。手作業だとキリがなくて、どこまでやればいいか判断が難しく、終わりが見えない悩みがありました。実際、いくら手作業で1日かけて綺麗に処理しても、AIの分類結果と大差ないことも多いのです。

社内テストとして、会社の駐車場周辺をハンディスキャナーで計測してみましたが、電線がしっかり認識されていましたし、車も「車両」として正しく分類されていて、その精度に驚きました。

半日の手作業が約1時間に短縮、PC占有問題も解消

――導入後、具体的にどのような効果がありましたか。

長浦氏:

もっとも大きいのは、分類作業の時間短縮です。河川延長約500mの起工測量では、植生除去を含む点群処理に従来は半日程度かかっていましたが、ScanXにアップロードするだけで約1時間で自動分類が完了しました。しかも、処理中は放置しておけるので、その間に別の仕事ができます。

クラウド処理により、ローカルPCがビジー状態にならなくなったことも大きな改善点です。以前は処理中にPCが長時間占有され、他の作業がまったくできませんでした。いまはアップロードしてしまえばPCが自由に使えるので、業務の並行性が格段に上がりました。

また、点群処理の経験がない社員でもScanXにアップロードするだけで分類の初動ができます。また、熟練者に作業が集中することで生じる属人化も解消しつつあります。その後のさらに細かい調整が必要な場合だけ私が対応すればいいので、属人化していた作業の大部分が不要になりました。

――データ共有の面ではいかがでしょうか。

長浦氏:

以前は既存のクラウドサービスに点群データをアップロードする際、約1GBのデータを30MB程度まで間引いて圧縮する必要がありました。 気をつけて間引かないと表現が崩れてしまいますし、アップロードにも1〜2時間かかっていたのです。

ScanXはドローンで取得した点群データをそのままアップロードできるので、その手間が丸ごとなくなりました。 圧縮によるデータ劣化の心配もなく、同じデータをそのまま処理できるのは本当にありがたいですね。

――土量算定や障害物検出への活用についても教えてください。

長浦氏:

BIM/CIMデータの重畳機能を活用して、設計データと点群データを比較しながら土量の立米値を算出しています。 最近はハンディスキャナーで、現場の担当者が自ら測定できる環境も整いつつあります。 ScanX上に計測結果が証跡として蓄積されていくのも、後から確認できるという意味で便利です。

また、電線やガス管などのインフラ設備を可視化して現場に共有することで、破損事故のリスクを事前に把握できるようになりました。 工事でライフラインを傷つけてしまうとペナルティが大きいので、こうした情報共有は非常に重要です。

段階的に展開し現場での計測完結を目指す

――今後の社内展開についてお聞かせください。

曽我部氏:

いきなり全員に教えても「自分には無理」と思われてしまうこともあるので、使えそうな人や興味がありそうな人から始めて、徐々に浸透させていくのが現実的だと思っています。

共有基盤としても、現在使用しているサービスから段階的にScanXへ移行していく予定です。 計測機能も充実していますし、現場の担当者にも使いやすいツールだと感じています。 いきなり全面的に切り替えるのは現場の負担が大きいので、焦らず浸透させていきます。

――将来的にはどのような活用を描いていますか。

長浦氏:

理想は、最初のドローン飛行測量だけきちんとやってしまえば、あとは現場で処理・計測・共有がすべて完結できる状態です。 そうなれば本部の負担も減りますし、現場の状況を一番よくわかっている担当者が直接対応できるようになります。

導入当初はドローン計測も着工時と完成時にしか行っていませんでしたが、いまでは「土がどれだけあるか確認したい」という依頼が週に2〜3回来るようになりました。 手軽に測れるようになったからこそ、計測の需要が自然と増えてきているのです。 今後は、より「現場に力を委ねていく」運用を目指したいですね。

また、将来的には点群データで工事の出来形を記録し、現在の写真主体の管理から移行できる時代になってほしいと思っています。 重要な箇所の証跡を点群で確実に残すことで、現場の作業負担は大幅に減るはずです。 いまはまだ、スキャナーの精度や処理アルゴリズムの面で課題もありますが、技術の進化に期待しながら活用の幅を広げていきたいと考えています。

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