点群データを“みんなで使う”時代へ――日本工営都市空間が進める、3次元データ活用の環境づくり
都市の総合プロデュースを手掛ける建設コンサルタント、日本工営都市空間株式会社。
同社では2025年、3次元点群データの活用における課題であったデータ容量の大きさや処理負担を解消するため、オンライン点群処理ソフトウェア「ScanX」を導入しました。
従来は、点群から不要な植生や構造物などを手作業で仕分ける分類(フィルタリング)作業に数日を要していましたが、AIによる自動クラス分類を活用することで、この工程を数時間へと短縮しています(※分類工程において)。
ハイスペックPCに依存せず、ブラウザ上で点群データを共有できる環境が整備され、現場での合意形成もスムーズになりつつあります。
作業負担の軽減や設計業務への時間創出につながった背景、そしてScanX導入の経緯について、プロジェクトを主導する技術本部 BIM/CIM推進室の森勇輔様にお話を伺いました。
※ScanXはローカスブルー(ゼンリングループ)が開発し、ゼンリンが提供しています。
課題
- 大容量の点群データで高性能PCや専用ソフトが必要、設備投資・効率低下につながっていた
- 分類(フィルタリング)作業が手作業で負担・時間ともに大きい
- データ共有が環境に依存し、関係者間で迅速な連携が難しい
ご提案内容
- クラウド型点群処理サービス「ScanX」の導入
- AIによる自動クラス分類などで分類作業を効率化
- ブラウザ閲覧・共有で環境依存を解消
導入効果
- 分類作業が数日から2~3時間に短縮し、負担が軽減
- 点群データの集約・保管で管理や受け渡しが円滑に
- URL共有で誰でもどこでも即時にデータ活用、合意形成が迅速化
導入企業様
日本工営都市空間株式会社
技術本部 BIM/CIM推進室
森 勇輔 様
- 【所在地】
-
愛知県名古屋市東区東桜二丁目17番14号
- 【資本金】
-
16億8200万円
- 【従業員数】
-
933名(2025年7月1日現在)
- 【事業内容】
-
都市計画・社会インフラの調査設計を担う
導入ソリューション
背景・課題
現場の「見える化」を支え、BIM/CIMを加速させる
――御社の事業内容について教えてください。
- 森氏:
-
当社は、都市を総合的にプロデュースする建設コンサルタントです。
道路や橋梁、上下水道といった生活基盤から、まちづくり、建築デザイン、防災まで、街のあらゆる要素をトータルでサポートしています。
――部署では、どのような業務を担当されているのですか。
- 森氏:
-
私が所属しているBIM/CIM(※注1)推進室は、そうしたあらゆる現場で、国土交通省主導の3次元モデルをうまく活用して、業務の効率化を支援するための部署です。
最新のドローンやレーザー測量といった新しい技術を、現場の担当者が「これは便利だね」と当たり前に使えるようにサポートしたり、社内に広めていくのが私の役割です。
※注1=Building/Construction Information Modeling, Managementの略。3次元モデルに部材の情報をデジタルで記録し、設計から維持管理までの全プロセスで共有、活用して効率化を図る取り組み
大容量データと手作業の負担――作業者を悩ませていた処理環境の制約
――点群データは、どんなシーンで活用されていますか。
- 森氏:
-
地上レーザーや移動式SLAMで取得した、設計図面では把握しきれない形状や構造を、3Dで見られるようにしています。
点群での計測は、現場を「見える化」するのに有効な手段だと思っています。
地上レーザーは6~7年前に導入していたのですが当初はなかなか広まらず、ここ数年の地上レーザーだけでなくその他の計測機器の発達でようやく活躍の場面がどんどん増えてきました。
――点群データ活用で、特に課題だった点はどこですか。
- 森氏:
-
まずデータ量の重さは避けられません。
ソフトウェアの起動やデータを読み込んで開くまでに時間がかかりますし、高性能なグラフィックボードを搭載したPCでなければ十分に動作しません。そのため設備投資も必要になります。
特に分類(フィルタリング)作業は大きな負担でした。
オリジナルデータから植生や構造物などを一つひとつ手作業で仕分ける必要があり、多くの時間を要していました。単純作業が続き、精神的にも負担の大きい工程でした。
また、データ共有はサーバー経由で行っていましたが、大容量データのため容量を圧迫し、社内での閲覧や共有もスムーズとはいえませんでした。
導入経緯・効果
環境を選ばないブラウザ型プラットフォームが、情報共有のハードルを下げる
――ScanX導入の決め手は何でしたか。
- 森氏:
-
御社とのWeb商談がきっかけでした。
ScanXの「誰でも」「早く」「簡単に」というコンセプトが、社内で点群活用を推進する立場にある私たちのニーズと合致していました。
特に、複雑なインストールなしでブラウザから点群データを即座に閲覧・共有できる点が魅力でした。
加えて、ボタン一つで樹木の本数や樹高を計測できる樹木解析機能にも関心を持ちました。
――実際に利用してみていかがでしたか。
- 森氏:
-
私はもともと非建設業界で働いていたのですが、ScanXのインターフェースはとてもシンプルで、初めてでも操作に迷うことがありませんでした。
移動やズームも直感的ですし、余計な機能がなく必要な操作に集中できます。
ほかのソフトと比べても遜色ないくらいのスピード感で表示してくれました。
マニュアルもすごくしっかり作られていて、操作に困ることはありませんでした。
点群データのプラットフォームとしても利用していて「とりあえずここにデータをアップロードしておいてください。後から確認します」などの使い方ができるのもスピーディーでありがたいです。
ScanXの画面:誰でも簡単に点群データをアップロードし、自在に確認・活用できる
「10分の1」に工数削減。作業の自動化が生み出した効率化
――自動クラス分類機能は、どのように使っていますか。
- 森氏:
-
ScanXで植生や建物の分類を行ったうえで、ほかのソフトウェアに読み込ませ、必要な点群のみを表示しています。
構造物が植栽に紛れているケースなどは最終的に手動で確認しますが、自動クラス分類があることで作業時間は大きく変わります。
例えば20ヶ所の現場データを処理する場合、以前は分類工程だけで2~3日かかる感覚でした。現在は2〜3時間程度で完了します。
分類工程に限れば、作業時間を従来の10分の1以下に短縮できていると感じています。
時間がかかっていた工程が軽減されたことで、本来注力すべき設計や検討業務に時間を充てられるようになりました。
――データ共有に変化はありましたか。
- 森氏:
-
以前は他ソフトウェアのネットワークライセンスの制限もあり、閲覧できるユーザーや台数に制約がありました。
現在はURLを共有するだけでブラウザから点群データを閲覧できるため、そうした制約がなくなりました。
Teamsなどにリンクやキャプチャ画像を貼り、関係者間でタイムリーにやり取りできるようになり、コミュニケーションや合意形成のスピードは確実に向上しています。
ネット環境さえあれば、ハイスペックPCでなくても閲覧できるので、取得したデータをすぐにアップロードし、必要なタイミングで確認・説明できる点も大きな変化です。
――ScanXに要望があれば教えてください。
- 森氏:
-
現状、まだ最終的な確認は人の手で行う必要があります。
AIによるクラス分類精度がさらに向上すれば、より効率化が進むと期待しています。
今後について/展望
点群活用を「特別な技術」にしない。誰もが使える環境を目指して
――お客様のニーズとして、3Dを活用したものを求められるシーンは多くなってきているのですか。
- 森氏:
-
国土交通省の方針もあり、現場での3D活用ニーズは着実に増えています。
3D・点群データは、図面では伝わりにくい形状や構造を分かりやすく見える化でき、打ち合わせや合意形成にも有効です。
一方で、すべてを3Dにすることが最適とは限りません。要所で3Dを活用しつつ、2Dとの使い分けを見極めることが重要だと考えています。
――業界全体での点群データの普及や今後についてはどうお考えでしょうか。
- 森氏:
-
2027年度に国の工事契約書類が2Dのみだったものから3Dも可能になります。
国の動きが自治体へ広がり、さらに現場へ浸透していく流れになると見ています。
計測機器の普及も進む中、後処理やデータ活用の環境整備がますます重要になるでしょう。
――社内では、これからどんな状態を目指していきたいですか。
- 森氏:
-
計測機器が社内的に普及してきたので、データを取れる人材は徐々に増えてきました。
次は使いこなせる人材を増やしていきたいと考えています。
担当者レベルで計測し、みんなが普通にScanXを自然と活用できる環境を目指しています。
点群データの計測研修を受ける様子。現場で自在に点群データを扱う力を育成
都市インフラの維持管理やまちづくりにおいて、現場を精緻に捉える情報の密度だけでなく、それを迅速に意思決定へつなげる処理のスピードが不可欠です。
日本工営都市空間様は、ScanXを活用することで、かつての重くて扱いづらい情報を、誰もがブラウザ上で自由に使いこなせる生きた道具へと昇華させました。
3次元データを当たり前のツールとして現場の隅々まで浸透させようとする同社の取り組み。
そこには、技術を軸に豊かな社会をプロデュースし続けようとする、プロフェッショナルとしての強い意志が感じられました。