建築現場を変える点群×BIMの連携と即時共有 ─現場からアイデアが広がる新しいワークフロー
建設業界において、ドローンやレーザースキャナーによる3次元測量の活用が急速に広がっています。点群データを使った施工計画や干渉チェック、現場状況の把握は、もはや土木分野だけでなく建築分野でも欠かせないものになりつつあります。しかし、取得した点群データはしばしば数十GBにも及び、現場や関係者と共有する際には、データの送付やPCスペックの違いなど、高いハードルが存在します。
株式会社鴻池組様では、ICT・BIM戦略部を中心に建築現場への点群活用を推進しています。しかし、大容量データの共有や既存ビューアの動作環境への依存、BIMデータとの重ね合わせに複数ソフトの変換を要するなど、数多くの課題を抱えていました。そこで導入したのが、ゼンリングループのローカスブルーが提供するクラウド型点群処理サービス「ScanX」です。URLを共有するだけで点群データを閲覧でき、IFC形式対応によりBIMデータとの重ね合わせも直接可能。データ授受にかかっていた工数がまるごと解消され、現場への速報共有から施工計画の事前検討まで、点群活用の幅が大きく広がりました。
今回は、ScanXの導入経緯と活用方法について、株式会社鴻池組 ICT・BIM戦略部 BIM戦略課長の内田公平様、同部の伊野上太一様にお話を伺いました。
課題
- 点群データ(数十GB)とオフラインビューアをセットで送付する必要がある。一方で、相手のPCスペックや容量に依存するため、既存のPC環境では、カクつきや「使いづらい」という評価を受けることが多い。
- 点群ビューアがIFC形式に未対応で、BIMデータとの重ね合わせに複数ソフトの変換処理が必要
- 速報的な確認が困難で、データ処理に時間を要し、現場の意思決定が遅れがち
ご提案内容
- クラウド型点群処理サービス「ScanX」の導入
- 点群データのURLを関係者に共有することで、各自がWebブラウザ経由で手軽に点群を確認できるワークフローを新たに構築(ビューア的活用)
- IFC形式への対応により、建築BIMデータと点群の直接重ね合わせを実現
- ベースマップとの統合表示で、周辺環境を含めた施工計画の検討が可能に
導入効果
- データ授受にかかっていた工数がまるごとゼロに(数十GBの送付が不要)
- 点群を取得した当日にURL共有で速報確認が可能になり、現場の意思決定が加速
- 「動作が軽い」「細かいところまで取れている」などスムーズに確認できるようになったという現場から評価。活用アイデアが自発的に派生
- BIMデータとの即時重ね合わせにより、干渉チェックの大枠判断を当日中に実現するなど迅速化
導入企業様
株式会社鴻池組
写真左から伊野上様、内田様
ICT・BIM戦略部 BIM戦略課長
内田 公平 様
ICT・BIM戦略部 BIM戦略課
伊野上 太一 様
- 【所在地】
-
大阪市中央区北久宝寺町3-6-1
- 【資本金】
-
53億5千万円
- 【従業員数】
-
1,923名
- 【事業内容】
-
建設工事の企画、測量、設計、監理、請負及びコンサルティングに関する事業、環境汚染物質の除去、土壌浄化、河川・湖沼の浄化等環境保全に関する事業、その他環境関連事業に関する企画、調査、設計、監理、施工及びコンサルティング並びにこれらに附帯する一切の事業、不動産の売買貸借及びその仲介並びに所有管理に関する事業、骨材及び砂利の採取販売に関する事業、建設用資材の製造及び販売に関する事業、不動産の鑑定評価に関する事業、再生可能エネルギーを利用した発電事業並びにそれに関する施設の運営、管理及び電力会社への電力供給、販売に関する事業
導入ソリューション
建築と土木の垣根を越え、点群活用の「ゼロからイチ」を担う
――まずは御社の事業概要と、BIM戦略部の役割について教えてください。
- 内田氏:
-
株式会社鴻池組(以下:鴻池組)は、建築工事・土木工事を幅広く手がける総合建設会社です。 私たちICT・BIM戦略部では、各本支店に対してBIMの活用ビジョンや指針を策定・展開する役割を担っています。加えて、BIMの専任者が十分にいるわけではありませんので、教育や新しいソフトの検証、現場への適用と立ち上げも私たちの重要な業務です。
- 伊野上氏:
-
私の方では、各種ツールの機能検証や、撮影した点群の速報共有や、現場への展開がメインの業務です。 現在、月に1・2回ほど点群撮影の依頼が各現場から寄せられており、改修工事で既存図面の信頼度が低い場合や、新築着工前の敷地の形状把握や地盤高さの確認などで点群を取得しています。
――建築分野での点群活用は、まだ広く普及しているとは言えないとの声も聞きます。御社でのご認識や、実際の使い方はいかがでしょうか。
- 内田氏:
-
技術的に見ると、建築と土木では同じような技術やツールを使っている場面が多くあります。実際に土木分野の方々と意見交換をすると、「この部分は建築でも使えるのではないか」「逆に建築のやり方が土木にも応用できるのではないか」といった話になることがよくあります。
そのため、私は分野の違いにこだわるのではなく、土木で生まれた技術であっても建築で活用できるという発想で取り組んでいます。こうした分野を越えた技術の共有が、DXやBIMの可能性をさらに広げていくと考えています。
- 伊野上氏:
-
例えば、弊社では点群データとBIMデータを重ね合わせるフローを取り入れています。これは図面だけでは現状を正確に把握しづらいような改修工事や、敷地内の高低差の確認など、現場の条件把握・計画作成が課題になるケースで役立っています。
大容量データの送付とビューアの動作環境が大きな壁に
――点群データの活用において、これまでどのような課題がありましたか。
- 伊野上氏:
-
一番の課題は、点群データのやりとりに手間がかかることでした。以前利用していたビューアは、点群データの容量がそのまま出力されます。点群データが20GBあれば、20GBをまるごと相手に送らなければなりません。 相手側のPCにもそれなりの空きストレージとスペックが要求されます。
とくに現場で使用しているノートPCは容量が限られており、大容量の点群データを抱えきれない可能性があります。また、データをダウンロードするにも時間がかかり、動作も不安定になりがちです。ビューア自体の操作にも慣れが必要で、「使いづらい」という評価が少なくありませんでした。結果的に、点群データ共有・活用へのハードルが高く、せっかく取得しても十分に活かしきれない場面も多く見受けられていたのです。
――点群データとBIMデータとの重ね合わせについてはいかがでしょうか。
- 伊野上氏:
-
こちらも大きな課題でした。以前利用していたビューアは、建築・土木BIM/CIM(建築・土木における3次元モデルの総称)データを異なるツールで相互にやり取りするための国際標準形式である、IFC形式に対応していませんでした。
そのため、BIMデータを重ね合わせるには複数のツールを経由して変換を繰り返す必要がありました。また、従来は点群データをメッシュ化してBIMツールに取り込むことも試みましたが、メッシュデータが重くなり、ざっくりとした位置合わせや全体感の確認しかできない状態だったのです。
- 内田氏:
-
データの仕様の違いは、作業効率にも大きく影響します。たとえば、建築のBIMと土木で使用する座標系の考え方は大きく異なります。建築では敷地ごとに独自のXY軸を設定し、原点を「0,0」としたローカル座標でデータを作成することが一般的です。
一方、土木では平面直角座標系などの公共座標を使用します。このため、建築と土木のデータを重ね合わせる際には座標の不整合が生じやすく、それがデータ活用の効率に大きく影響していました。
IFC形式対応を機に、「建築のやり方」でワークフローが組めるように
――「ScanX」の検討や導入・きっかけとなった背景を教えてください。
- 伊野上氏:
-
検討を始めたのは2024年末です。神戸の現場で点群と建物のBIMデータを重ね合わせようとしたのがきっかけでした。当時はScanXがIFC形式に未対応だったため、さまざまなツールで変換して、なんとか載せるようにしていました。
それが2025年11月にScanXがIFC形式に対応したことで、大きく作業環境が改善しましたね。これにより、点群データとBIMの重ね合わせがScanX上でかなりやりやすくなりました。鉄骨のIFC形式のデータを入れ込んで、撮った日にScanX上にアップロードし、速報的に「今日取ったデータはこうなっている」と現場に確認できるようになりました。結果、点群とBIMを一体的に扱えるワークフローが整ってきたことが、本格的な活用のきっかけでした。点群データを設計や施工のプロセスの中に無理なく組み込めるようになり、実務で使いやすくなったことが大きいと思います。
- 内田氏:
-
もともとWebビューアでは、点群を表示すると動作が重いのではという不安がありました。以前、海外メーカーのツールを検証した際は、サーバーとの通信で待ち時間が多く、何GBものデータのやりとりにストレスを感じていました。しかし、ScanXを見せていただいた時に、快適に描画できていて、検証を決めました。
- 伊野上氏:
-
25GBの大容量データを入れた時にも、不便な印象がなく、点群の閲覧ができるならBIMも乗せてみよう、といった具合にスムーズに進みましたね。
――導入にあたり、とくにどのような点を評価されましたか。
- 伊野上氏:
-
まずは、PCスペックに依存しないでWeb上でURLさえあれば点群データを閲覧できるという点です。現場に撮ったばかりの点群を速報的に共有できます。以前のように大容量ファイルを送って、受け側のPC環境を気にする必要がなくなりました。「きちんと動く」「意外と細かいところまでデータが取れてる」と現場から言っていただけるようになりました。
もう一つは、IFC形式対応による重ね合わせです。鉄骨のBIMデータをIFC形式で直接ScanXに入れて、点群と重ね合わせて干渉の有無を速報的に確認できます。細かい干渉チェックは後日支援部署で行いますが、大枠の判断はScanXだけで済むようになりました。
URLを投げて「まず見て」から始まる現場との新しい関係
――実際の活用方法イメージについてより詳細に教えてください。
取得した点群データを実際にScanXへアップロードした画面。
- 伊野上氏:
-
メインの使い方は、現場で取得した点群データの迅速な共有です。現場でドローンやレーザースキャナーで点群を取得したら、ScanXにアップロードしてURLを共有する。受け取った側はビューアで開くだけです。
印象的だったのは、旧鴻池組本店(国の登録有形文化財)の事例です。大阪で取得した点群を、私が東京に持ち帰り、ScanXにアップロードして、現場で作業している方にURLで共有しました。「ドローンの点群はこのように取れているから、それを補うように地上から撮ってください」と遠隔で指示を出せたのです。
現場へのアプローチとしては、要望を受けてから展開するのではなく、まずURLを共有して「まずは確認してみてください」と伝えるようにしています。口で説明してもなかなか伝わりませんが、実際にデータを見てもらうと、「こんなことができるなら、もっと活用しよう」という声が自然に出てきています。
――建築ならではの活用事例があればお聞かせください。
点群データとBIMを重ねた画面で、足場と天井の取り合いを事前に確認。
- 伊野上氏:
-
ホールの天井補強の現場では、点群データに足場のBIMデータを重ね合わせました。天井の形状が非常に複雑なため、2次元の断面図では足場計画が「だいたいこんな感じ」で終わってしまい、現場で合わせることが多いのです。しかし点群と、BIMデータを重ねてみると、足場が天井からはみ出している箇所が明確にわかります。3Dで事前に検討ができれば、足場の発注量を最適化することができるので、ヤード確保にもつながります。
他にも、解体後の新築計画敷地では、既存躯体を山留め代わりに残す計画があり、その位置把握に点群を活用しました。現場側で高さや座標をCADに転記する際の精度向上に役立っています。
さらに、搬入計画への応用も有望だと考えています。たとえば都心の狭い敷地では、トレーラーに鉄骨を積んで搬入する際に積荷が電線に引っかからないか、大型車が坂道で底を擦らないか、といった検討が必要になります。
- 内田氏:
-
従来は現場からの情報をもとに形状を作成していたのですが、道路の傾斜など、作り手によって、成果物のレベルにばらつきが生じてしまいます。点群は正確に地形を捉えられますから、その点群データを手軽に見られて、BIMデータとの重ね合わせて検討できるというのは、メリットが大きいですね。
データ共有の手間がなくなり、現場から活用アイデアが生まれる
――導入後の効果として実感されていることや、その後の業務の変化などはありましたか。
- 伊野上氏:
-
繰り返しになりますが、作業フローの中で、データのやりとりをするという工程が完全に解消されたのが大きいです。
空きストレージの確認、ダウンロードの時間、ビューアの操作習熟など、これらすべてが不要になりました。ScanX導入後は、データのやりとりを一切していません。最終成果物として点群データを納めることはありますが、途中段階での確認はすべてScanXのURLを共有する形で行っており、それだけでやり取りが完結しています。
実際に出張中に点群の編集が必要になった際に、協力会社に編集作業を依頼し「編集が完了したらScanXにアップしてください、後で確認します」と伝えるだけで、移動中のモバイル環境からでも進捗確認や現場への展開まで“ワンストップ”で対応できました。
- 内田氏:
-
現場や社内の方からの反響もいいですね。 今まで見えなかったものが見えるようになることで、さまざまなアイデアも頂くようになりました。
点群の活用も社内で認知されてきており、「やはり最初の段階で点群を撮っておくべきだ」と考える所長や担当者も増えてきました。現場だけでなく店内でも、「最初に撮っておけば損はしない」という認識が広がりつつあります。
ScanXの導入によって点群の取得や共有が容易になり、点群を活用するプロセスが標準的なワークフローとして根づき始めていると感じています。
点群活用を「当たり前」にする三カ年計画
――今後の展望についてお聞かせください。
- 内田氏:
-
2026年1月から「KONOIKE BIMスタイル2.0」という三カ年計画を始めました。そのなかで、点群活用のワークフローを部門横断で定着させ、3年後には点群を使った検討が当たり前になっている状態を目指しています。各本支店でも活用するための講習や運用面でのサポートを充実させていく予定です。
着工前に点群を取得しておくことの重要性も強く感じています。外部から提供される測量データには誤差が混入するケースがありますので、自社でデータを取得し、図面やBIMデータと照合するようにしています。やはり責任問題にもなりますから、自分たちで取ったデータで確認する体制を整えたいと思っています。
- 伊野上氏:
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今後は、工事着工前に点群を取得して測量データや図面と照合することを標準化したいと考えています。また、ベースマップと点群とBIMの三つを統合して閲覧できる環境を整備し、デジタルツインに一歩でもつなげていければと思っています。
今後の活用では、現場が「点群と仲良くなる」ことが鍵だと思っています。点群は怖いものではないということを知ってもらい、現場サイドでも計測や確認ができるようになれば、活用の幅はさらに広がるはずです。そのためにも、ScanXのような手軽に点群を扱えるツールの存在は非常に大きいと感じています。
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