近年、さまざまな業界でDXが推進されています。経済産業省が発表した「2025年の崖」問題も相まって、不動産業界でもDXを進めようと思っている担当者は多いのではないでしょうか。しかし、いざDXを進めようとしてもどこから手をつければいいのか、どんなことに気をつければわからないかもしれません。そこで、本記事では不動産業界におけるDXの概要や必要性、注意点、実際にDXを行っている事例について紹介します。
不動産業界におけるDXとは
そもそもDXとは、IT技術の導入によって革新的な改革を行い、企業活動や生活の質を向上させることです。不動産業界においてもDX化が進んできているとはいえ、まだまだ非効率的な業務があるのも事実です。そのせいで残業時間も多く、離職率の高さから人手不足となっています。
不動産業界の現状と課題
不動産業界が抱える現状と課題には、以下の3つがあります。
⮚アナログな商習慣、DXに関するノウハウ不足
不動産業界では、契約書や物件の図面、設計図、重要事項説明書などいまだに紙ベースでのやりとりが多く、アナログな商習慣が根付いています。手書きの書類も多く、顧客や業者とのやりとりに電話を使うことも少なくありません。そのため、DX化を進めるにあたってまずデジタル化、デジタル技術の活用が必要です。
また、こうしたアナログな商習慣のため、社内にIT化やデジタル化を進められるような人材が非常に少ないということも課題といえます。社内にDXのための知識やノウハウが不足しているため、DX化をどう進めれば良いのかわからないのです。
⮚長時間労働による人手不足
不動産業界では、長時間労働による人手不足が課題となっています。残業が多くなってしまう原因として、顧客の都合に合わせて土日も内見や契約を行うことで有給休暇が取りにくいこと。さらに、深夜でも水漏れ、鍵の紛失などには対応しなくてはならないことなどが挙げられるでしょう。
こうした理由から離職率も高く、業界全体が慢性的な人手不足に陥っているのが現状です。
⮚顧客ニーズの多様化
不動産業界に限らず、顧客ニーズの多様化や変化の激しさはさまざまな業種で課題となっています。例えば、不動産の選び方もこれまでは店舗に足を運んで選ぶのが一般的でしたが、今ではパソコンやスマートフォンを介してインターネット上である程度物件を絞り込むのが当たり前となっています。
さらには、働き方やライフスタイルの変化にともない、新築の不動産を求める人から中古物件、リノベーションの有無などを考慮する人も増えています。また、テレワークの普及とともに、物件選びにおいて通勤時間の重要度が下がった顧客も少なくありません。顧客ニーズの多様化に対応するのに、人の力だけでは限界があり、DX化による業務効率化やコスト削減が必要不可欠といえるでしょう。
不動産業界でDXを推進するメリットと必要性
不動産業界においてDX推進がどうして重要なのか、メリットと必要性を解説します。
業務効率化
顧客管理や追客、物件情報や帳票の入力作業や帳票、マイソク(案内チラシ)の作成など、人の手で行っていた作業を自動化することで、業務時間を短縮し、入力ミスや入力漏れなどのヒューマンエラーを減らすことにもつながります。
コスト削減
顧客管理システムや物件情報の入力作業のRPA等を導入し、単純作業をシステムに移行することで、アナログな手法で管理するための紙やインク、保管スペースなどの削減につながります。また、単純作業に携わっていた社員にほかの重要業務を担当させられるというメリットもあります。
人手不足解消
物件の査定のように、限られたベテラン社員だけが行える業務があると、どうしても若手を育成するための時間が割けず、人手不足に陥りやすくなります。また、長時間労働も人手不足の要因です。しかし、DX化によってAIを活用した価格査定システムを導入したり、業務効率化を行ったりすることで育成時間の確保や長時間労働の是正が叶います。
顧客満足度向上
近年、物件探しもインターネットが主流になりつつあります。物件問い合わせの対応をチャットで受けたり、VRを使って内覧したり、リモートで相談を受けたりと、時間や場所を問わず対応できる体制を整えます。顧客の利便性がアップすることで、顧客満足度向上につながるでしょう。
不動産業界でDXを進める場合のポイント
不動産業界でDXを進める際のポイントや注意点を解説します。
目的の明確化
DXを導入するに当たって、自社の課題と目標を明確にしておきましょう。DXの導入が目的なのではなく、DXの導入によって何を成し遂げたいのか、ビジョンを明確にします。
組織づくり
DX推進のためには、まずそれに適した組織体制をつくる必要があります。経営者とIT部門、実際の現場で業務を行う営業、開発などの部門がそれぞれ協調しあって進めなければなりません。
DX人材の確保
DX推進のためには、デジタル技術に関する知識やスキルを持つ人材が必要です。もし自社内で確保できなければ、DXのためのパートナー企業の力を借りるという方法もあります。
システムの導入
DXのためには、新システムの導入が必須です。既存業務の効率化はもちろん、新しいビジネスモデルの創出、組織風土の改革につながります。特に、RPAなどを用いた業務の自動化は長時間労働や人手不足などの問題解消にも効果的です。
スモールスタートから始める
DXは一朝一夕にできるものではありませんし、一気に変えようとしてもうまくいかないことが多いです。そのため「まずはできることからスタートする」「導入しやすい部分から進める」など、ハードルを下げることが重要です。
不動産業界でDXを進める場合の注意点
不動産業界でDXを進める場合の注意点を解説します。
長期的な視点を持つ
DXの取り組みは、1年以内などの短期間で成果が出ることは少なく、5年以上運用してはじめて効果が得られるものもあります。DXに取り組む場合は中長期的な視点を持ち、腰を据えて取り組むことが重要です。
中途半端で終わらせない
DXの取り組みは前述のように、中長期的な視点で行う必要があります。すぐに成果が出ないからといって、途中でストップしないようにすることが重要です。短期目標と中長期目標を設定し、DX推進の取り組みが間延びしないようにしましょう。
事前準備に時間をかける
従来のレガシーシステムを新システムに移行するためには、時間が必要です。スピードの求めすぎはいけませんが、だらだらと時間ばかりかかってしまうのも避けたいです。目的の明確やDX人材確保など事前の準備を入念に行うことで、その後の取り組みがスムーズに進むようにしましょう。
不動産業界のDX化の事例
最後に、不動産業界のDX化の事例を紹介します。
事例1:オンラインでの展示・商談・内見
2020年4月、新型コロナウイルス感染症を機に政府から緊急事態宣言が発令され、外出自粛やテレワークの推進が要請されました。それを受け不動産業界でも、実際に現地・店舗に訪れなくてもいつでもどこでも見学ができる「バーチャル展示場」や、スマホ1台で商談ができる「オンライン商談」の活用が進みました。
さらにある不動産会社では、Web上で物件検索から内覧予約するだけで、内見希望者が単独で実際に内覧できる内覧サービスを開発しました。このサービスでは、内見希望者に事前にWeb上でデジタルキーを渡しておきます。物理的な鍵の受け渡しをすることなくデジタルキーによってエントランス・各部屋の扉を解錠し、内見者は自由に室内を見られるのです。セルフ内覧は顧客の利便性向上や社内リソースの削減など、多数の効果をもたらすとして、多くの企業から注目されています。
事例2:物件や空き地の情報を地図上に可視化
続いて、小田急グループに属する小田急不動産の事例です。同社の住宅事業本部・開発企画部は、用地の仕入れ、造成および建築計画までを担っていましたが、膨大な情報をどう管理するかに頭を悩ませていました。これまで、空き地情報や物件情報は紙の住宅地図やExcelファイル上などに分散していました。しかもそれらの管理は担当者ベースであり、ルールが明確になっていなかったのです。異動や社内体制の変化などによって情報が散逸してしまうこともありました。
そこで多様な情報を一元管理できるプラットフォームを構築しました。空き地情報や物件情報を一元管理できるようになり、属人化していた業務を関連スタッフ全員で共有できるようになったのです。
また、同プラットフォームでは地形を図形登録するだけで、住居表示や所有者名、所有者住所や地主に関するコメントなどを結びつけ、簡易データベースとして管理できるようになりました。地番・住所データが地図上で可視化されたため、直感的に土地情報を把握できるようになり、作業効率化にも貢献しています。
事例2では専門業務から営業活動までワンストップでサポートする「ZENRIN GISパッケージ 不動産 プレミアム」アプリケーションが活用されました。土地情報の閲覧に加え、物件情報・営業情報の可視化や各種情報の一元管理などの機能・コンテンツにより、不動産業務全体の効率化を手助けします。
不動産業界でもDXは必要。中長期的な視点で取り組もう
不動産業界においてもDX化の波は避けられず、業務効率化や人材不足解消などの観点からも早急な取り組みが求められます。しかし、DXは短期間で成果が出るとは限らないため、中長期的な観点から取り組むことが必要です。今回ご紹介した事例を参考に、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
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