地震や台風などの災害では直接的な一次被害に加え、情報不足による二次被害も大きな問題です。安全な避難場所へ誘導できない、救援物資を届けられない、医師の派遣ができないなど、刻々と変わる状況に応じて適切な指示ができなければ、被害はさらに拡大してしまいます。適切な指示ができない最大の理由は、さまざまな組織や機関から情報が出されるものの、統合して管理されていないため必要な情報が迅速に入手できない点でしょう。そこで、災害時に多数の組織・機関から出される情報を集約・管理するために開発されたのがSIP4Dです。今回はSIP4Dの概要、解決する課題、共有されるデータなどについてお伝えします。
SIP4Dとは?
SIP4Dとは、国立研究開発法人防災科学技術研究所と株式会社日立製作所が2014年から共同で研究開発を進めてきた基盤的防災情報流通ネットワークです。内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として行われており、災害対応に必要な情報を多様な情報源から収集し、データとして迅速に配信します。
SIP4Dは、情報を提供する側と受け取る側の仲介役として、複数の組織や機関が提供する情報を収集・統合し、誰もが見やすいデータに変換して共有を可能にするネットワークです。SIP4Dの活用により、目的に応じた情報の共有で被災地の現状が可視化されます。また、災害対応にあたる複数の組織において、状況認識の統一化が図れます。これらの効果により、必要な支援策を迅速に行えるようになります。
SIP4Dが解決する災害時の課題
SIP4Dの活用により、これまで災害時の課題とされていた次のような点の解決が可能になります。
情報入手に係わるやり取りが効率化される
SIP4Dにおける最大の特徴は、複数組織間での双方向の情報共有を迅速に行えることです。例えば、災害が起きた都道府県が、気象庁が提供する気象情報を入手する場合、都道府県と気象庁でのやり取りが必要になります。さらに、道路情報が必要になれば、交通機関ともやり取りをしなければなりません。
災害が発生し一刻も早く復旧活動をしなければならない時に、必要な情報の確認・提供先が異なり、それぞれやり取りしなければならないのは非常に非効率的です。SIP4Dはこのような状況を防ぐため、多数の情報を一括して収集して共有できるネットワークを構築します。これにより、災害地がそれぞれの情報提供先とやり取りを行う手間がなくなり、救援活動へ専念することが可能です。
提供された情報を変換する手間がなくなる
災害状況を確認するための情報は必ずしも形式が統一されているわけではありません。紙のものもあれば、データのものもあります。アナログな情報も紙であるとは限らず、なかには会議室のホワイトボードに記載されただけの状態で、その場に行かないと確認できない情報も少なくありません。さらにデータの場合もさまざまな形式があります。
そのため、情報を受け取る側は、自分たちで閲覧できる形式に変換する手間が生まれ、これもまた非効率的です。SIP4Dは、データの自動変換機能を実装しているため、多様な組織や機関から収集した情報をそれぞれの現場で利用しやすい形式に変換して共有します。これにより、情報の形式を自分達で変換する手間がなくなり、必要な情報へ迅速にアクセスすることが可能です。
必要に応じて適切な情報を入手できる
災害時の課題として、似たような情報が複数の組織や機関から提供されていて、どれを選択すべきかの判断に手間がかかる点が挙げられます。また、道路の被災状況データと避難場所のデータなどあわせて確認したい情報がバラバラに出されていて、確認がしにくくなるといったケースも少なくありません。これらも被災状況の確認や支援策の実行に後れを来してしまう大きな要因です。
SIP4Dには、その解決策として、論理統合機能を有しています。例えば、公的機関が提供する道路被害データと民間が提供する通行実績データなどの同種情報を統合し、リアルタイムの道路通行可否情報を作成する。複数の移動体通信社から提出される通信エリア状況を統合して不通エリア地域を確認する、などの活用が可能です。
また、道路通行情報と市や県が出す避難所情報を統合して作成した地図に、用途に応じて土砂災害情報、医療機関被害状況などを統合するといったことも行えます。これにより、同種情報の選択にかかる手間を削減し、必要に応じた情報の作成を簡単に行うことが可能です。
SIP4Dで共有されるデータとユースケース
災害時に適切な対応をするには、リアルタイムでのさまざまな情報が不可欠です。また、地震が起きた際、山間部では土砂崩れの状況、海沿いでは津波情報など、場所によって必要となる情報も異なります。ここでは、SIP4Dでどのようなデータが共有されるのか、地震時や台風時などのユースケースによって必要となるデータにはどのようなものがあるのかについて見ていきましょう。
災害発生時に必要となる基本的なデータ
地震・台風に共通して必要となる情報は、道路関連データと避難所関連データです。前項でも紹介したように複数の組織や機関で提供される道路の被害状況データ、民間の通行実績データなどを統合した道路通行可否情報。都道府県や市町村、EMIS(広域災害救急医療情報システム)などで提供される避難所データを統合した統合避難所情報をさらに統合したものが災害発生時の基本データとなります。
地震や台風発生時のユースケース
地震や台風が発生した際、前述した基本データと併せて必要となる主なデータとしては、次のようなものが挙げられます。
⮚地震に直接関連するデータ
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建物被害推定分布
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面的震度分布
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震源分布
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津波情報など
⮚台風に直接関連するデータ
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気象予測
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台風の進路予測など
⮚リアルタイムでの被災状況を確認できるデータ
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リアルタイム推定震度分布
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リアルタイム推定建物全壊棟数
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衛生画像や広範囲の撮影が可能な斜め空撮写真
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空中写真(通常、地表面に対して垂直に撮影される)
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ドローン映像など
⮚二次災害に対応するためのデータ
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寒暖等の気温分布
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実効雨量(土砂災害危険度)
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土砂災害危険箇所・警戒区域など
⮚被災者支援を行うために必要なデータ
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断水・給水・入浴支援状況
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携帯電話サービスエリア情報
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医療機関被害情報
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ライフライン復旧状況など
上述した情報やデータのなかには、ドローン写真や断水・給水・入浴支援状況など現地でしか入手できないもの。建物被害推定分布や実効雨量、気温分布のようにGISデータ(位置情報が付されたデータ)として入手できるもの。そして、衛星画像や空中写真のようにGISデータはあるものの、手動で登録するものなど、その種類は多様です。
従来であれば、これらの情報は受取側と提供側とがやり取りをして入手・加工する必要がありました。しかし、SIP4Dにより、やり取りの手間や統合・分析といった手間が大幅に解消されるようになり、迅速な被害状況の把握、支援策の実行が可能になっています。
GISデータについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。
災害対応は、日頃から防災意識を持っておくことが重要です。弊社では、自治体向けサ―ビスや住民向け地図作成ツールなど、防災に欠かせない、自助・公助・共助をサポートする地図サービスを用意しています。住民サービス向上ご興味があるご担当者の方は、ぜひ、ご相談ください。
災害対応に効果を発揮するSIP4D
SIP4Dは、災害対応に必要な情報を多様な情報源から収集し、データとして共有する基盤的防災情報流通ネットワークです。災害時の課題となる情報入手の煩雑な手間、必要な情報に加工する手間などを大幅に軽減し、適切かつ迅速な被災地や被災者支援対策の実行を可能にします。
SIP4Dは、多様な組織や機関から提出される情報やデータを収集し、統合や分析を行いますが、そのほとんどのデータはGISデータです。災害時はもちろん、通常時の商圏分析や人流調査などでもGISデータが大きな役割を果たします。なお、GISで災害対応を進めていくためには、地域の建物情報を収集しておくことが必要です。
弊社では、所在地の緯度・経度情報はもちろん、建物面積や集合住宅の戸数、オフィスビル・商業ビルの部屋数、店舗数なども収録している「建物ポイントデータ」を提供しています。建物ポイントデータを活用し、各種GISアプリケーションと組み合わせると地図上にさまざまなデータがマッピングできるため、災害時対応にも活用できるでしょう。災害時対応に興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。