「EV充電スタンド満空情報」はEVユーザーにとってどのような価値を持つのか?自動車ジャーナリストの会田肇氏が語る!

当社では来る電気自動車(EV)時代に対応すべく、日本全国の調査網を活用し、EV充電スタンドの詳細なデータを収集しています。
今回は、2024年1月に発表した「EV充電スタンド満空情報」がEVユーザーにとってどのような価値を持つのか、自動車ジャーナリストの会田肇氏に執筆いただきました。

EVを取り巻く現状

脱炭素社会の実現に向けて、これまで一般的だったガソリン車やディーゼル車から電気モーターを動力源として走行する電気自動車(EV)への転換が世界的に進み始めている。日本において、EVよりもエンジンとモーターを組み合わせた「ハイブリッド車(HEV)」が主流となっていたが、ここへ来て輸入車を中心に電気のみで走る「バッテリー式EV(BEV)」が相次いで発売されると少しずつではあるがBEVの販売台数が増加傾向に転じてきている。

一般社団法人 日本自動車販売協会連合会が発表している「燃料別販売台数」によれば、2023年(1〜11月)のBEV(普通乗用車のみ)の新車販売台数は約4万188台。これは普通乗用車全体の約245万台と比較すれば、わずか1.6%強にしかすぎないが、それでも20年が約1万5000台、21年が2万1000台と増え続け、23年11月までの統計では前年比1.9倍を超えるまでになっている。

中でも伸長著しいのが軽BEVだ。2022年6月に日産と三菱から軽BEVが発売されるや、日本で販売されるBEVとしてはかつてない販売台数を記録。22年にはわずか半年で計2万7645台を販売し、2023年には4万4161台を販売する までになった(全国軽自動車協会連合会)。これはまさに、軽BEVが身近な“足”として認められた結果と言えるだろう。

さらにプラグインハイブリッド車(PHEV)はBEVを上回る販売台数で推移しており、これを踏まえれば、日本も「外部充電できるEV」が普及の領域に入りつつあると言っていいと思う。

BEV普及への残課題

モーターによる走りを一度でも体験すれば、誰もが後戻りできなくなる快適さを実感するはずだ。しかし、日本では今もなおHEVの圧倒的な普及率に対してBEVの存在感が薄いのは前述した通りだ。それはどうしてなのか。

もっとも大きいのが充電への不安だ。ゼンリン調べによると充電スタンドは日本全国に31,435口が設置されており、その内訳は急速充電が9,612口、普通充電が21,823口となる。2030年までにそれを約30万口まで引き上げる計画はあるものの、ここ数年は古いスタンドを新しいものへと更新している経緯もあり、結果としてその設置数はほぼ横ばいであるのが現状だ。今後の口数増加が見込まれているとはいえ、これまで身近に感じられてきたガソリンスタンドと比べると、この充電環境にドライバーは少なからず不安を覚えるのだろう。

特にマンションなどに住んでいる方にとっては、駐車場に充電設備がほとんど設置されていないのが現状で、となれば充電はインフラに頼らざるを得ない。つまり、市中の充電スタンドを上手に活用できなければ、充電設備を自前で持てる戸建てでない限りいつまでもBEVは“使い勝手の悪いクルマ”になってしまいがちだ。充電スタンド自体の増加はもちろんのこと、充電スタンドを安定的に利用できる環境の整備がまさしく、BEV普及のカギとなっていると言えるだろう。

BEVは「行きは良い良い帰りは恐い」

ならば、戸建てで自宅に充電設備があればいいのかと言えばそうとも言い切れない。たとえば遠方まで出掛ける時。往復の行程がバッテリーの航続距離範囲内に余裕で収まっていれば問題はない。しかし、少しでも復路にバッテリー残量の不足が生じるような遠方まで出掛けるとなれば、帰りはどのタイミングで充電するかでドライバーの頭の中はいっぱいになる。

もちろん、慣れてくれば充電するタイミングも把握しやすくなるものだが、問題なのは予定した充電スタンドが既に利用されていた場合。次のスタンドまで先送りすることも考えられるが、そこもすぐに使えるかどうかの保証はない。最近でこそ、充電スタンドが増えつつあるとはいえ、それでも基本的にはそこで“充電待ち”することもあり得るわけだ。

仮に充電待ちがあったとしても自分一人ならまだいい。同行者がいれば、その状況にブーイングが出ることは必至。場合によっては必要がない買い物までしてしまう可能性もある。こういう状況にはまれば、まさに気分は「行きは良い良い帰りは恐い」そのものに陥ってしまうのだ。

BEVを不安なく使いこなすには、充電可能かリアルタイムで把握することが重要

そこで重要となってくるのが、充電スタンドが使えるかどうかが移動中にでも簡単に把握できることだ。それが可能となれば少なくとも充電のために奔走したり、無駄な待ち時間を過ごす必要がなくなる。ドライブルート上に充電する場所を上手に組み込むなど、充電の予約までできるとすれば、効率の良いドライブ計画も立てやすくなる。

ただ、ほとんどの急速充電では30分の時間制限が設けられているのが現状だ。しかも、充電スタンドごとに出力は様々で、最近でこそ90kWといった高出力のものも増えてきたが、大半は40k~50kWにとどまる。これにバッテリー保護の関係上、バッテリー残量が80%に到達すると充電速度は遅くなっていくため、実際はこの範囲内で追加充電を繰り返しながらの対応となる。こうした制限がある状況下では、いかに充電スタンドごとの利用可否をリアルタイムに把握することが重要になるか理解できるだろう。

理想的には、カーナビのルート探索時に、バッテリー残量が少なくなりそうな地点を予測し、その周辺にある充電スタンドを自動的に提案してくれるとありがたい。加えて、充電の待ち時間を有意義に過ごすためのプラスアルファの情報まで提供されたら、充電そのものの概念も大きく変わっていくのではないだろうか。不安だった充電が楽しみの一つに変われば、BEVでのドライブはもっと満足できるものになるだろう。

EVの使い勝手を高める、ゼンリンの「EV充電スタンド満空情報」

そうした中で、近日提供が開始されるゼンリンの「EV充電スタンド満空情報」は、全国の充電スタンドを網羅するだけでなく、充電スタンドの満車/空車状況をリアルタイムに把握することができるAPIサービスだ。

また、本サービスでは、現在提供されている各充電サービス事業者の満空情報を集約して一括提供できるのが最大のメリットとなる。現状ではサービスごとに会員登録をしないと情報が得られないことが多いが、ゼンリンの「EV充電スタンド満空情報」なら一括して各社の満空情報が得られるのだ。そして、この満空情報は今後も連携する充電サービス事業者数を順次拡大していく予定となっている。このサービスの活用により、多くのEVユーザーが利便性を実感するのは間違いないだろう。

さらに、ゼンリンでは充電スタンドの位置情報や満空情報の提供にとどまらず、今後のEV社会において課題となる充電インフラ不足やエネルギーマネジメント問題などの解決にも取り組んでいくという。未来のEV社会、EVユーザーをゼンリンがどのように支えていくのか、今後の動きにぜひ注目していきたいと思う。

執筆:会田 肇氏

執筆:会田 肇氏

自動車誌出版社を退職後、フリージャーナリストとしてカーナビゲーション評論活動の他、自動運転の中心であるITS分野を取材。
ユーザー目線でわかりやすい解説をモットーとしている。
日本自動車ジャーナリスト協会会員

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