[プロジェクトストーリー]目に見えない「風」を“見える化”する。

アドバンスドナレッジ研究所が目指す“風解析”の文化

近年、ニーズが高まる風や気流の解析シミュレーション事業

建物の中や周囲における、風や熱、音の動き。これらについて、設計段階で事前に解析するケースが増えている。株式会社アドバンスドナレッジ研究所(以下、アドバンスドナレッジ研究所)では、流体シミュレーションソフト「FlowDesigner」を使い、建物や街の設計図をもとに風、熱や音の拡がりの「見える化」を実現している。ここでは、同社の行う風の解析シミュレーション事業を紹介する。

事業について詳細を語ってくれたのは、同社でFlowDesignerの企画・技術コンサルティングに関わっている3名。近年、風のシミュレーションが求められる背景や、これからの街づくりにおける可能性を聞いた。

代表取締役 黒岩真也氏
ソリューション技術部 広報グループ 主任 塚本 百合 氏
ソリューション技術部 営業・企画グループ 主任 鳥居 美那 氏

環境に配慮し、建物の付加を高めるためのビジュアル化

目には見えないが、私たちにとって非常に身近な風や空気の動き。これらは、建物を設計する際に配慮すべき重要な項目といえる。たとえば大型施設を建てた際、建物の中をどのように気流が循環するか、熱が一箇所にこもらないか。それらの事前検討が求められてきた。そして、この検討フェーズで大きな力を発揮するソフトがFlowDesigner。建物内の自然通風や室内空調による風・気流の動きをビジュアル化し、一目でわかりやすいようにシミュレーションする。

「風や気流は、誰もが肌で感じているもの、生活に深く関わるものです。だからこそ、できるだけ設計の早い段階から議論すべきですが、目に見えないため、感覚的な議論になることもあり、専門知識を持たない方と情報共有するのが難しい傾向にありました。そこで、これらを“見える化”し、環境設計について誰もがコミュニケーションをとれるような、人と環境をつなぐツールとしてFlowDesignerが活用されてきました」(黒岩氏)

これらの解析は、建築の際に“必須”な作業ではない。しかし、建物の付加価値をつける上で重要になるという。特に近年は、環境問題への影響も考慮し、建物自体のエネルギー消費量を抑える動きが顕著になった。そこで、空調効率を高める方法として、気流の解析が重要視されている背景もあるようだ。

360度見渡せるVR出力にも対応。プレゼンテーションツールからコミュニケーションツールへ

環境意識の高まりの中で、建物内だけでなく、その外や周辺における風の動きを解析するニーズも高まっている。

「新たな建物を建てることで風の流れが変わるケースがあります。特に高層建築物は、強いビル風が発生するなど、近隣の方の住環境に影響を与えたり、危険を招いたりする可能性もあり、クレームにつながることも考えられます。そのリスク管理としても活用していただいています」(塚本氏)

建物外のシミュレーションをする場合、建物とその周辺のミニチュアをつくり、風を流す風洞実験が行われるケースもある。だが、パソコン環境の進化と、それにともなうBIM(※1)の発展により、コンピューター上で実践できるように。FlowDesignerもBIMデータに対応しているため、ゼンリンの3D地図データを取り込むことで精度の高い形状データを解析に反映させ、素早く仮想的な実験をすることができる。

※1

BIM:ビルディング・インフォメーション・モデリング。コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデルを再現し、業務効率化や細かな情報管理を行える建築業界の新しいワークフロー

さらに同社では、解析した空間に入り込み、シミュレーション結果をインタラクティブに体験するVR(※2)出力にも対応している。遠隔地であっても複数人同時に同じVR空間へ入り込み、結果を確認するだけではなく、自由に移動や音声によるコミュニケーションをとることができる。リアルな3D地図データを活かした情報共有を実現したといえる。

「大切なのは、解析に詳しくない方でも直感的に理解していただけるアウトプットにすること。また、3D地図データを活用できるようになり、より幅広い方に興味を持っていただけるようになりました。施主様・近隣住民の方へのプレゼンテーションツールとしてだけではなく、設計者同士のコミュニケーションツールとしても活用されていると聞いています」(黒岩氏)

※2

VR:バーチャルリアリティ。「仮想現実」の意味

騒音問題の解決に暑さ対策。活用方法はさらに広がる

手軽かつ分かりやすいアウトプットになることで、さらに幅広い人が身近にシミュレーションを活用する未来も視野に入ってくる。

「いずれは、分譲マンションや一戸建ての住宅などを販売する方にも、FlowDesignerのシミュレーションをご活用いただくのが理想です。風は住環境の大きな要素になり得るので、購入希望者の検討材料として『場所と季節を選べば風の流れがすぐに見える化』できるよう、ツールが広く普及していくとよいですね」(鳥居氏)

さらにFlowDesignerは、熱や音の拡がりを解析することもできる。

「たとえば、高速道路近くにマンションを建てる場合、道路の騒音にどう対処するか。実は建物の高さを工夫するだけで、騒音が低くなるケースがあります。それは住環境の向上はもちろん、遮音性の高い壁や窓が必要無くなるなど、コスト低下にもつながります」(黒岩氏)

また、コンクリートの多い都市においては、日射熱の滞留などが大きな問題になる。これらを設計段階で対策するためにも、FlowDesignerは有効になってくるだろう。

シミュレーションのハードルを下げ、環境検討のフロントローディング化を目指したい

風や熱の解析シミュレーションソフトは他にもあるが、多くが海外製で専門知識がないと扱うことが難しいものが多かった。そこでMade in Japanの「設計フェーズで本当に使いやすいソフトを作りたい」と考えて開発されたのがFlowDesignerである。以来、建築環境設計の現場で徐々に広まってきた。

「建築はものづくりの中でも『一品生産』で、『試しに作ってみる』ができず、さらに失敗を許されないプレッシャーと戦いながら設計を進める、厳しい分野だと認識しています。だからこそ、設計の早い段階でシミュレーションを行い、さまざまなアイデアを試せる環境が必要です。私たちが目指すのは、より使いやすいソフトを開発し、そういったシミュレーションを普及していくことです。建てる前に細かく環境を検討する文化を広げ、それが当たり前になる社会を作っていけたらと思います」(黒岩氏)

事前にシミュレーションをするというハードルを下げていくことで、住みやすさ・暮らしやすさを高めていく。FlowDesignerは、人の生活環境をより良くするための新たな指針を示す先端の技術と言える。

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