[プロジェクトストーリー]

都市の風の流れを素早く見える化。訴求力のあるプレゼンテーションで気流シミュレーションの概念を変えたアドバンスドナレッジ研究所の決断

リアリティあふれる3D都市モデルデータがBIMにもたらした革新

建物にどう風を取り込み、熱を逃がしていくか。熱流体解析は、建物の環境設計に欠かせない視点だ。

これをビジュアル化するのが熱流体シミュレーションソフト。

だが、従来は研究用途向けがほとんどで、建築関係者が使いこなすにはハードルが高かった。
その常識に一石を投じたのが株式会社アドバンスドナレッジ研究所(以下、アドバンスドナレッジ研究所)のFlowDesigner。

使いやすいインターフェースと、高速かつ安定性の高い計算ソルバーで、建築関係者から高い支持を得てきた。
さらに、2016年からは、ゼンリンの3D都市モデルデータを採用し、都市空間を広域で捉えたシミュレーションがより手軽にできるようになった。
なぜ、3D都市モデルデータを採用したのか。
その経緯と使い勝手をアドバンスドナレッジ研究所の黒岩氏に聞いた。

株式会社アドバンスドナレッジ研究所 ソリューション技術部
(写真左から)
代表取締役 黒岩真也氏
ソリューション技術部 営業・企画グループ マネージャー 蕪木智弘氏
ソリューション技術部 営業・企画グループ 大塚悟史氏

風を考慮した設計を容易にする熱流体解析ソフトウェア

アドバンスドナレッジ研究所は1998年の創業。
もともと大手電機メーカーで空調を設計していた創業者が、使いやすい熱流体シミュレーションソフトがないことから、自前で開発することを決意して独立した。

「熱流体解析は、流体力学や熱力学などの物理と複雑な計算処理を伴います。これまでも解析ソフトがなかったわけではないのですが、研究者なら使いこなせても、建築士やデザイナーが使うにはハードルが高いものでした」とソリューション技術部長の黒岩真也氏は語る。

2003年にリリースされたFlowDesignerは、使いやすさが大いに評価され、右肩上がりで利用者が増えているという。BIM元年といわれた2009年からは、CADデータを取り込んでより詳細な形状を活かしたシミュレーションが行えるようになり、設計のアイデア検証に大いに役立てられてきた。
またアドバンスドナレッジ研究所自身も1ユーザーとしてFlowDesignerを使用しており、シミュレーションにハードルを感じている建築関係者への、解析コンサルティングにも携わってきた。

長崎の風環境シミュレーション動画の一場面。
紙飛行機が風のイメージで、場所により風の向きが変わっている様子が伺える。

「都市を拭きける風をシミュレーションしたい」

もっとも、風の動きは複雑だ。建物に取り込まれる風は、外的環境によって大きく変わる。

天気予報で北風が吹くと言っていても、近隣の地形や隣接する建物によっては、風が回り込んで南から吹いてくることもあり、正確に状況を把握するためには、広域で風の動きを捉えることが求められる。
実際、同社に寄せられる要望にも都市空間全体で風を検討したいという声が増えているという。

だが、操作性の高いFlowDesignerをもってしても、当時そのシミュレーションは容易ではなかった。

「従来、広域でのシミュレーションをお引き受けすると、街の地図データを手書きで作成する必要がありました。国土地理院で公開されている地形データの上に建物の形状を描き、インターネットの地図サービスとにらめっこで標高データをとって高さを出す。連日1,000棟あまり描いて、ようやく街のモデルができあがっても、人の手によるものですから、ミスはつきもの。体力も神経も消耗する仕事でした」と打ち明ける。

熱流体シミュレーション例

幹線道路の強風対策として、道路沿いに樹木を配置した場合のシミュレーション比較動画の一場面。
樹木配置後に風の流れや強さが変化している事が分かる。

樹木配置前

樹木配置後

徹底した調査に裏打ちされた正確かつリアリティあふれる3D都市モデルデータ

そこで検討したのがゼンリンの「3D地図データ」だ。
ゼンリンは地図情報の国内最大手。徹底した調査をもとにした住宅地図やGIS(地理情報システム)を制作・販売している。その中でも、3D都市モデルデータはゼンリンの詳細地図情報と専用車両で計測したデータにより、現実の街並みをテクスチャ付きで忠実に再現。
現在は、国内21都市の3D都市モデルデータが整備されている。

「リアルな街並みの3Dデータがあるのですから、手間が大幅に削減されることは明らかでした。しかも、形状、高さなどの信頼性も高い。シミュレーションサービスにおいてモデル制作工数が抑えられるため、結果的にお客様へのご提供価格も抑えられ、精度も上がる。大いにうならされました」

黒岩氏は2015年、初めて3D都市モデルデータを触ったときのことをそう振り返る。
さらに決め手になったのは、リアリティの高いテクスチャだ。データを収集する専用車両には各種センサーや全方位カメラが搭載されており、建物の形状や質感、道路の交通標識や路面ペイントまであまさず収集している。

「他にも検討していた地図データはあったのですが、せっかくの3次元なのにマッチ箱を並べたような状態に過ぎず、リアリティに欠けていました。当時我々はVRを使ったプレゼンテーションの提供も視野に入れていましたので、その訴求力の高さは非常に魅力的でしたね」

実際、3D都市モデルデータをVRで見てみると、看板スペースや街路樹なども再現されており、歩いたことがある場所なら、一目見ただけでもどこだか判別できる。「リアルに一番近いデータ」という黒岩氏の感想は決して言い過ぎではないだろう。

■導入前

地図データをもとに1つずつ建物形状をFlowDesigner上で立ち上げていた。

■導入後

データをインポートし精度の高い建築形状を容易に再現できるようになった。

各種シミュレーションを統合したBIMソフトへ

ゼンリンの提供する3D都市モデルデータは、1区画625メートル四方。「風を見るにはちょうどよい」(黒岩氏)サイズだ。2014年のリリース時は、決められた区割りでしか提供されていなかったが、現在はオンラインでデータベースにアクセスし、任意のポイントを中心にエリア指定をしてダウンロードすることができる。建築予定場所を中心においたり、風を考えるうえで欠かせない建造物や地形を含んだエリアを選択するなど、使い勝手が大いに向上している。

「これだけ詳細なテクスチャがあるにも関わらずデータが軽いのも3D都市モデルデータの利点です。FlowDesignerの数値計算結果に加え、テクスチャを表示したリアルな3Dデータを同時に描画することができ、シミュレーションソフトの枠を一歩超えたプレゼンテーションが可能になりました」

東京駅周辺の360度風環境シミュレーション動画の一場面

リアリティの高い建築物テクスチャもゼンリン3D都市モデルデータの特長。

ゼンリンは、3D地図情報データの提供で長い実績がある。マシンパワーの乏しいカーナビゲーション等でもスムーズに動くデータを開発してきたことが、シンプルでユーザーフレンドリーなデータにつながっている。今後、アドバンスドナレッジ研究所では、FlowDesignerとBIMソフト・3次元システムとの統合を目指していきたいと話す。

「建築設計をするうえで検討したい要素はもちろん風だけではありません。採光や人の流れ、地震動なども検討に加える必要があるでしょう。その都度別のアプリケーションを立ち上げるのは非効率です。我々のソフトは計算エンジンとしてバックグラウンドで動き、BIMソフト上でタブを切り替えるだけで各シミュレーションができるようなものに収斂(しゅうれん)していくはず。それにはマクロな視点で空間を素早く正確に再現ができる3D地図データが不可欠です。ゼンリンには大いに期待しています」

MR(複合現実)空間での取り組み

MR(複合現実)空間でのミニチュア表示。
アドバンスナレッジ研究所はこのような新しい取り組みも積極的に行っている。

3D地図データに関するお問い合わせ

デモ・お見積り依頼、サービスのお申し込み方法について、お気軽にお問い合わせください。

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