BIMのエキスパートが証言する、正確な都市モデリングデータの価値

株式会社三菱地所設計
  R&D推進部 BIM推進室
機械設備設計部
エンジニア
矢野 健太郎 氏

建設業界では、いまや必須のワークフローとなっているBIM(Building Information Modeling:ビルディング インフォメーション モデリング)。
建築物の3次元モデルや情報を活用し、設計から施工、維持管理に至るまで、建築ライフサイクルのすべてにおいて、次々とイノベーションを起こしつつある。
このBIMの展開を早くから推し進めてきた三菱地所設計R&D推進部BIM推進室の矢野健太郎氏は、ゼンリンの「3D地図データオンライン提供サービス」がリリースされた当初から、これを基幹となるプラットフォームとして利用している。
その背景にある考え方や活用法と、今後の可能性を聞いた。

流体シミュレーションで明らかになった設計の新たな可能性

「3D都市モデルを使って気流解析をすると、東京駅前の超高層ビルには、8階あたりからビルに沿って上昇気流が吹くところがあるんですよ。ちょっとした発見でしたね」
と相好を崩すのは、三菱地所設計の矢野氏。
氏は同社R&D推進部BIM推進室に所属するエンジニアで、機械設備設計部を兼務している。R&D推進部BIM推進室は先進的なデジタル技術を調査研究し、建物や街区を設計する同社事業で活用することを目的とした部署で、機械設備設計部では、その成果を設備設計などに反映していく。 BIMにも早くから着目し、より使いやすいものへと進化させてきた。
「現実空間の情報をデジタル空間で再現しバーチャルでシミュレーションすることで、さまざまな可能性を検討できる。BIMの登場から10年以上が経ち、IT技術自体が向上したこともあって、BIMによる設計の可能性が次々と広がっています。そこに欠かせないのが3D地図データです」
という。

都市モデリングデータの作成が設計の現場を圧迫、情報共有に課題も

建物の設計では、敷地の形状や高さ、勾配のデータがベースとなる。建ぺい率や風環境などを考慮して外形線を引き、風や光を読みながら窓や吹き抜けといった外装や内部デザインに活用していく。
風を読むには流体シミュレーションソフトを活用する。だが、長らくこれらは非常に手間のかかる作業として、設計部門の重荷となってきた。
「設計用アプリケーションと、流体シミュレーションソフトの間でデータの連携が取れていなかったので、結局、出力された紙の設計図面をもとに、シミュレーションソフトの中でもう一度建物を3Dで描いていくしかなかった。壮大な二度手間です」
また、風の流れを再現するには、周囲の環境データも必要だが、これも3Dで描かれたデータはなかった。そこで、意匠設計担当が、手作業で描き起こしていた。

「手作業のため、その都市モデル自体、正確とはいえません。しかも、同じ街でもう一棟建物を作る際に、前のプロジェクトで使った3D地図データは著作権をクリアできなかったり、エリアが少しだけ足りず活用できないことなどがありました。社内に大量のデータが散在しているにも関わらず、社員が共有して使える都市モデルデータがほとんどないという状態になっていたのです」

正確なモデリングデータが新たな知見を生む

そんななか、流体シミュレーションソフトの開発元であるアドバンスドナレッジ研究所からゼンリンの「3D地図データ」の活用を勧められた。2018年のことである。
「驚きました。そこには都市そのものがデジタル化されて存在していた。活用イメージが広がり、これはものすごくおもしろいと期待を膨らませました」
矢野氏をもっとも驚かせたのは、立体交差などの道路データなどがしっかりと描きこまれていたことだ。従前に使用していた都市モデルは、建物に関してはかなり手をかけられていたが、立体交差の複雑な形状までは手が回りきらず、どうしても「嘘っぽさ」がぬぐいきれなかったという。ゼンリンの「3D地図データ」には、立体交差も正確に再現されており、そこに風が吹き込んだときの気流の乱れも表現することができた。
冒頭の超高層ビルに沿う上昇気流の例も、「3D地図データ」を活用した気流解析によって“発見”された新事実だ。複雑な丸の内の街区を抜けて超高層ビルに当たった風は、上向きに方向を変えて普段は想定し得ない上昇気流を発生させていたのだ。
「これまでの我々が持っていたデータでは、この風を確認することはできませんでした。精密に風が可視化できるようになり、建物を設計する際に、構造の強度や安全性、環境性をさらに高める検証が可能になりました」
シミュレーションの精度が高まることで、設計の現場に新たな視点がもたらされたのだ。

東京駅周辺の気流解析イメージ
[熱流体解析ソフトウェア「FlowDesigner」(株式会社アドバンスドナレッジ研究所)を使用]

本来のミッションにリソースを集中できるように

その後2019年4月に、「3D地図データオンライン提供サービス」がリリースされた際も、いち早く導入を決めた。
「使い勝手が格段によくなりました。それまでは必要なスポットの情報を得るために、複数の3D地図データを購入して結合しなければいけないことも多々あったのですが、オンライン提供サービス導入後は範囲を自由に指定してダウンロードできるようになりました。非常に効率的です。我々はデジタルデータを扱うエンジニアではありますが、IT技術者ではありませんから、データを扱うのは苦手という人間も少なくありません。そんな人間でも使いこなせるのですから、相当ユーザビリティには工夫がされていると思います」
「我々のゴールは人々の生活を豊かにすること」と矢野氏はいう。
「私たちがBIMに対して取り組むべきことはただ3次元モデルを作ることではなく、それとさまざまな情報を組み合わせた活用を通じて、人々の生活を豊かにする新しい知見を見いだすことです。そのベースとなるモデルを作ってもらえているのは非常にありがたいですね」

将来、誰もが最新のデータを活用して設計に携われるようになる

都市モデリングデータの将来に向けて、矢野氏は大きな展望を持っている。
「我々も、いわば都市の景観を生み出す作り手であって、我々が手掛けた場所については、誰よりも早くそれらの建物を反映したデータがそろいます。もし将来、ゼンリンの「3D地図データ」と、我々のモデリングデータをシームレスにつなぐことができれば、プラットフォームとして非常におもしろいものができるのではないでしょうか」

東京駅周辺の「3D地図データ」と建物情報の活用イメージ

東京駅周辺の「3D地図データ」と建物情報の活用イメージ

さらにBIMをベースにした設計の未来にも思いをはせる。
「そう遠くない将来、いまPCの中で行なっている作業を、ホログラムのようなバーチャルツール上でできるようになると考えています。高さをもう少し高くしてとか、道路をここに通してといったことを、つまんだり、指で押したりといった直感的な操作でできるようになるかもしれません。そうなると、スキルの壁は格段に下がって、誰もが建設に携われるようになる可能性があります。きっと常識にとらわれないユニークな発想が続々登場して、建築は大きく変わるでしょう」
と顔を輝かせる。
都市モデリングデータが作り出す建築設計の未来。すでにその足音は聞こえ始めている。

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