地理人コラム

空想地図製作の裏側「何かがあった形跡」

2016/09/01時点の情報です。

9月とはいえ、まだ暑い日が続きそうです。
この夏は外に出るスマホゲームが大流行し始めましたが、目の前の人との衝突だけでなく、熱中症等々充分お気をつけください。
今回は久しぶりに、空想地図(実在しない都市の地図)の製作の裏側をお届けします。
「今」の地図を描くにも、その今が成り立った経緯、歴史的な変遷を考慮しないとなかなかリアリティは出ません。

そこには駅があった ~平川駅周辺~

さて、見た目は普通の乗換駅で、街も随分賑わっているようです。市内で最も賑わう平川駅周辺です。地図を見て怪しいのは平川駅の北側。他の路地は小さな街路も縦横に交差しているのに、平川駅の北(図上)には斜めの道路が走っています。そしてその斜めの道路の南側(図下)には、平川高速バスターミナルと中電百貨店…どちらも電鉄系の持ち物のようです。ここで感づいている人も多いと思いますが、ここに中村電鉄の駅があった、ということです。その南側にあった東西を結ぶ鉄道路線と直通するため、旧駅は廃止となり、跡地はバスターミナルと百貨店に生まれ変わった、ということになります。

そこには川があった ~リビア平川周辺~

同じく平川駅から徒歩圏ですが、地図の中央は、何やら新しそうな建物がたくさんある再開発エリアです。東(図右)側に川がありますが、よく見ると西(図左)にも川なのか池なのか、水路のようなものがあります。実はこの細い水路がもともとの川の本流で、あとで東側の直線的な流れに改められました。といってもこの流れに変わったのは100年以上前。河川改修の直後、この曲がった河道の内側は軍用地となり、戦後は理化学関連の研究所になります。これが1980年台に移転・撤退となり、跡地の再開発で生まれたのが、この商業施設、宿泊施設、オフィスビル、タワーマンションを囲み中央に緑地を配した「リビア平川」です。曲がった水路はしばらくの間なく、この再開発でその一部を再現する形で復活しています。「川面に映るビル夜景」の演出もあるのでしょう。

そこには街道があった ~中ノ宮駅周辺~

中宮区の中心部、中ノ宮駅周辺は、鉄道が東西に走っている他、赤で描かれた道路(国道)が直交し、交通の要衝のようです。よく見ると東西(左右)の道に並行するように細い道があり、そのあたりが薄い赤で塗られ、商店が密集している様子が見られます。古くからこの地にありそうな信用金庫(中村信金)もこの道路沿いにあり、この細い道もまた重要な意味を持ってそうです。この道は細く、今やほとんど存在感を感じませんが、北を走る郡城街道の旧道。今でも旧家や商店があり、以前の街道の名残を感じることができるでしょう。

そこには鉄道が通る予定だった ~新中村地図~

最後に、ニュータウンの中心部、新中村駅です。南北(上下)に「風の通りみち」という緑地が貫いていますが、どうも怪しさが漂っています。こちらも周辺の街路の網目とは異なる角度で斜めに入り、さらに駅付近で少し膨らんでいます。これはもともと新幹線を作る予定で空けられた土地で、結果的に新幹線はこのルートを通らず別の駅(中村駅)を通ったため、この土地は空き地になってしまいました。それを後天的にグリーンベルト(緑地帯)として整備し、今に至っているようです。

実在しない都市でも、地図を見るだけで随分と、歴史的な経緯、あわせて今の風景も浮かび上がってきます。
次回は空想地図から離れ、実際の地域の地図から見えることをお届けします。お楽しみに!

地理人(今和泉 隆行)

地理人(今和泉 隆行)

1985年鹿児島市生まれ。7歳のときに道路地図やバス路線図を書き始める。
1997年に実在しない「中村市」の都市地図の原形を書き始め、現在も改正中。
主な著者「みんなの空想地図」白水社

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