地理人コラム

地図から見えること「空いたところに潜むもの」

2017/8/29時点の情報です。

こんにちは。夏は遠くへ出かける人から暑さを避けて動かない人までいますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。私は暑いのは苦手で家でじっとしていたい方ですが、そんな気持ちとは裏腹に九州へ行きつつ、8月末は香港、深セン、広州を回る予定です。今回は、そんな遠い地の情報、ではなく、住宅地のどこかに潜んでいるものをお伝えします。それは、「地図上で空いているところ」です。地図上に動をも建物もない隙間があるとき、そこには一体何があるのでしょうか。

こちらは神奈川県相模原市、上溝から陽光台です。
左上から右下にかけて空白があり、建物だけでなく、道路もありません。もうお気づきの人も多いと思いますが、左右の土地で標高が違い、この空白は斜面になっています。そのことを伝えるように、等高線を表す細い線が2本通っています。地名も、右側が陽光台…台地の上を思わせる地名で、左が上溝…溝と言うからには比較的低い場所の地名でしょう。
上溝のほうには神社があり、道路も曲がっていることから、古くから人が住んでいる様子が読み解けます。陽光台は、その地名だけでなく、直線的な道路から、比較的近年になって人が住み始めたことが読み解けます。水路がある低地と異なり、台地の上は、水道が通るまでは条件的に住みにくかったのですが、水道が通ると一気に宅地として人口は増えることとなります。

こちらは千葉県松戸市の三矢小台(みやこだい)から北国分にかけてです。
こちらも「台」とあって台地の上ですが、こんどは全体が台地の上で、傾斜はありません。しかしさきほどと同じく、左上から右下にかけて空白がありますが、これは何でしょう。
ここは新たな道路を作るために空けた土地で、まもなく東京外かく環状道路が開通予定です。もともとは建物がその周囲と同じくらいありましたが、道路開通のために1990年代に立ち退いて、今に至ります。このように、都市部で道路を作る際には、建物の立ち退きが必要なこともあり、完成までかなりの時間を要します。それを避けるべく、最近では地下にトンネルを掘って道路を通すこともあります。

最後に、滋賀県草津市の草津から大路にかけて、草津駅の南側の地図です。
中央部分、左右にかけて空白があるのがわかります。これも松戸市と同じく、これから道路が通りそうなところに見えますが、それとは全く異なり、以前川が流れていたところです。川といってもここを流れていた草津川はかなり特殊で、「天井川」という、地平より高いところに流れる川でした。
そのため、左上にある鉄道(JR琵琶湖線)も、川が上にあり、鉄道はトンネルで川の下をくぐる形になりました。しかし、天井川は増水すると、水が下流に流れず堤防の下の市街地に氾濫してしまいます。その危険回避のため、新たな放水路が作られました。こうして古い流路が廃河川となり、現在「草津市立草津川跡地公園」として市民の憩いの場となっています。

いかがでしょうか。地図上の空白ひとつ取っても、そこには色々なストーリーがあり、過去から現在、未来まで読み解く鍵があります。ふと地図を見て、空白があったとき、そこには何かしらのストーリーが隠されているかも知れません。それでは次回もお楽しみに。

地理人(今和泉 隆行)

地理人(今和泉 隆行)

1985年鹿児島市生まれ。7歳のときに道路地図やバス路線図を書き始める。
1997年に実在しない「中村市」の都市地図の原形を書き始め、現在も改正中。
主な著者「みんなの空想地図」白水社

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