地理人コラム

都市の歩き方「門前町」

2016/12/26時点の情報です。

寒くなってまいりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
2016年も残すところわずかです。さて、まもなく年明けということで、初詣で訪れることの多い「門前町」の様子をお届けします。

特にお参りの多い寺社の参道は、多くの人が行き交い、門前町が形成されます。門前町が形成されるだけでなく、大都市から伸びる鉄道の終着点にもなりました。それほどまでに、寺社および門前町は目指すべき重要な場所だったのです。

成田

首都圏でも多くの人が訪れるのが、成田市にある成田山新勝寺です。京成電鉄はその名の通り、東京と成田を結ぶ鉄道。今でこそ成田空港へのアクセス路線ですが、もとは成田山新勝寺へのアクセスのために作られました。 地図と写真を見てみましょう。

JR成田駅と京成成田駅は近くにあり、こちらは現代の市街地ですが、参道を進んで成田山新勝寺に近づくにつれ、木造の老舗のようなお店が増え、歴史的な門前町の装いが強まってきます。この、駅付近の現代的な町並みと歴史的な町並みのグラデーションが門前町のおもしろさであり、その割合によって、どちらの重みが大きいかが分かってきます。また、駅から成田山新勝寺までの距離は1km程度、徒歩10〜15分で行ける距離で、参道は歩く人で行き交い、町並みも続いています。

長野

長野市は善光寺の門前町として発達しました。長野県の県歌「信濃の国」の歌詞の中で、県内の4つの平野は「松本 伊那 佐久 善光寺」と歌われます。長野平野は古くから「善光寺平」と呼ばれたほど、長野市にとって善光寺は中心的な存在です。 地図と写真を見てみましょう。

現代的な市街地は長野駅前で、対照的に善光寺前は歴史的な町並みです。この間は2kmほどあり、距離にして成田の2倍ほど、こちらも風景はグラデーションのように変化します。徒歩で20〜30分かかるため、バスで移動する人も多く、両端(長野駅・善光寺)は行き交う人が多いものの、その中間を歩く人はまばらです。長野市は県庁所在地として人口も多いため、長野駅付近の市街地の重心が大きいのが特徴です。また、権堂アーケードも、権堂駅寄りは若い人が多く、参道に近づくにつれて古い店が多くなります。

伊勢

伊勢市にある伊勢神宮は、関西や名古屋を中心に全国から多くの人がお参りに来ます。現在の近鉄山田線は、もともと参宮急行電鉄として、大阪と伊勢神宮の最寄駅である宇治山田駅を結ぶために作られた鉄道です。 地図と写真を見てみましょう。

中心駅も伊勢市駅と宇治山田駅の2箇所、伊勢神宮も外宮と内宮の2箇所があります。現代的な市街地の賑わいは少々控えめですが、伊勢神宮には多くの人が訪れ、特に内宮前の「おかげ横丁」は人気を集めています。また、伊勢市駅・宇治山田駅から内宮までの距離は3〜4kmほどあり、徒歩で移動する人はほとんどいません。この間はバスで移動する人が多く、その間は市街地でも門前町でもなく、ほぼ住宅地です。
いかがでしょうか。門前町のある街は、現代の人が都市生活を送る日常の場所でもあります。歴史的な町並みを守りつつ、現代の市街地との共存が見られ、そのバランスや対比、それぞれの重心の距離等によって、その都市の個性ができてきます。初詣の際には、是非参拝だけでなく門前町めぐりや、現代の町めぐりを楽しんでみてはいかがでしょうか。

2016年、このコラムをお読みいただき、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。 それでは、良いお年を。

地理人(今和泉 隆行)

地理人(今和泉 隆行)

1985年鹿児島市生まれ。7歳のときに道路地図やバス路線図を書き始める。
1997年に実在しない「中村市」の都市地図の原形を書き始め、現在も改正中。
主な著者「みんなの空想地図」白水社

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