MaaSは発祥の地・フィンランドを皮切りとして、すでに世界中で社会実装が進んでいる。MaaSは単に移動を便利にするだけに留まらず、その背景にあるのは人とモビリティが有機的につながる、新しい社会インフラと産業の誕生である。本稿においては、MaaSの定義や成り立ち、今後の可能性、そして地図情報が果たす役割について解説をしていく。

著書 プロフィール

株式会社MaaS Tech Japan 代表取締役 日高洋祐 氏
東京工業大学総合理工学部卒業後、JR東日本に入社。在職中に東京大学大学院学際情報学府でMaaSをテーマに研究。
JR東日本のモビリティ戦略の策定に関わった後、2018年11月に株式会社MaaS Tech Japanを創業。2018年12月に一般社団法人JCoMaaS理事に就任。
著書に『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP社)。

MaaSとは何か? —都市移動全体を最適化するモビリティプラットフォーム

最近になってメディアでもMaaSについて言及されることが多くなった。しかし、日本ではMaaSの意味を誤って解釈されていることが多い。

近年、自動車ならばカーシェアやライドシェア、自転車ならサイクルシェアなど、新しいモビリティサービスの形が生まれ、所有から利用へという観点で展開されている。日本では、そうした自動車系サービスだけがMaaSであると誤解されていることが多い。そもそもMaaSとはモビリティサービスではなく、「Mobility “as a Service”」であり、「複数のモビリティサービスが利用者や都市にとって有機的に1つのモビリティサービスとして統合される」という見方が重要である。自動車(二輪・四輪)、電車、バス、トラム(路面電車)、タクシー、フェリー、飛行機、自転車等々、さまざまな移動手段がMaaSを構成する要素となる。

MaaSが実装されると、ユーザーはスマートフォンで経路を調べて行程すべての予約決済を完了することができる。例えばMaaSアプリで経路検索を行い、その場で必要な予約と決済を済ませることが可能だ。従来、新幹線予約と航空券予約とタクシー配車アプリと、経路検索アプリを併用しているようなユーザーにとってはその利便性の高さはイメージしやすいであろう。

またMaaSによる連携効果はユーザーの手間を省くだけではない。鉄道・バス・航空などの大量輸送機関は、ターミナル間を高速移動かつ多くの乗客を一度に乗せることができる。しかし、一人ひとりのユーザーのニーズに応じて柔軟にダイヤや経路を変えられるかというとそうではない。一方でタクシー、カーシェアなどは「好きに乗る場所や目的地、出発時間を選べる」という点で柔軟性はあるが、鉄道・バス・航空に比べれば料金が高くなりやすく、需要集中に弱い。このように、モビリティサービスにはさまざまな特性がある。多様な選択肢の中から、利用者のニーズや都市の混雑や効率性に合うように最適な交通手段を組み合わせ・配分していくことで、ドア・ツー・ドアのシームレスなモビリティサービスとして提供することが可能となる。

MaaSオペレーター

MaaSを実現するために、各交通事業者がモビリティサービスに必要な情報をオープンなAPIとして共有し、「MaaSオペレーター」と呼ばれる事業者が1つのパッケージにしていく。もしもそれがかなえば、上図のように人の移動をシームレスにサポートすることだけではなく、サービスを都市に提供するイメージとなり、渋滞や混雑の解消など「都市全体の最適化」も可能となる。

MaaSの起源

MaaSの起源はフィンランド・ヘルシンキにある。MaaS Global CEOのサンポ・ヒータネン氏は2014年6月、ヘルシンキで開かれた産官学コンソーシアムにおいてMaaS構想を発表した。その後スタートアップ企業としてMaaS Finland(16年6月MaaS Globalに改称)を設立し、MaaSアプリ「Whim」(ウィム)をリリースした。MaaS Globalは「Whim」におけるMaaSオペレータの役割を果たす。現在では世界各国に展開し、日本市場への進出も果たしている。自動車メーカー発ならばドイツ・ダイムラー社による「moovel」、自治体が推進しているものではアメリカ・ロサンゼルスの「GoLA」というサービスもある。日本国内でもトヨタ自動車のmyrouteや小田急電鉄のEMOT、東急のIZUKOなど多くのMaaSアプリがリリースされている。

地図情報の重要性

MaaSの普及時代には地図の重要性とその可能性が増す。従来のナビゲーションでは、これまで分割されていた自動車系と公共交通系(徒歩ナビゲーション)がより密接に連携する必要がある。配車機能が普及すると、ピックアップポイントのための道路の路肩情報や目的地の入口情報などこれまで整備対象となりにくかった地点情報のニーズも増していく。

多くのMaaSアプリは立ち上げると、はじめに地図が表示され、ユーザーの現在地を示す。その上で移動の起点となる自分のいる位置と行きたい場所を指定していく。MaaSに必要な公共交通や配車サービス系の情報の土台には常に地図情報がある。

ここで、地図情報の精度や粒度、鮮度の問題も重要となる。MaaSアプリを頼りにあらゆるモビリティサービスの移動を徒歩も含めてサポートする必要があるため、ユーザーが配車されたモビリティと適切に出会うことや、誤りなくバス停まで歩いていくためには粒度の細かな地図情報が欠かせない。移動手段の情報だけでなく、ユーザーが行きたい場所を指定するためには商業施設やイベント会場の情報などが地図に含まれていることも重要である。地図ソリューション会社のHERE Technologiesは2019年CESにあわせてSoMo(Social Mobility)というコンセプトを発表した。SoMoでは移動するユーザー同士のやり取りによって相乗りのマッチングを促進することや、ユーザー自身がイベント情報を作りだす機能を提供し注目を集めた。このように地図ソリューションとしての発展・進化をユーザーの移動様式(複数人で一緒に移動する、同じ目的地に向かう移動を想定する)から逆算して、ソリューションの在り方を考えていくプロセスは注目すべきである。

また、2019年10月に行われたITS世界会議において注目されたセッションでは、リトアニアのTRAFIやシンガポールのMobilityX、シーメンス社などから MaaSアプリ ⇒ MaaSシミュレータ(データ分析)⇒ 交通マネジメントにつなげていくという構想が発表された。単なる便利なユーザー向けサービスに留まるのではなく、ユーザーとモビリティの移動実績などデータ分析を通じて、交通マネジメントまで行っていくというものである。このようにナビゲーション用途としての地図だけでなく、今後はどのような情報を「地図」で整理・統合することによって新たな価値を生み出していくのかが焦点となっていく。

ゼンリンへの期待

ゼンリンは、住宅地図の整備から始まり、カーナビゲーション用、インターネット用、自動運転用地図など絶えずその事業に対して変化と進化を起こし続けてきた。土台となる情報インフラが整備されれば、上に乗るアプリケーションやサービスはより利便性高く付加価値の高いものとなるというICTのイノベーションの構造を体現し続けてきた企業であると筆者は考えている。

これまでは、所謂 “インターネットの時代” であった。そして、すでに人と情報はインターネットを介して十分につながったといえるが、次に訪れるのは「人とモノ(モビリティ)がつながる時代」である。その変化は、これまでのカーナビゲーションシステムやスマートフォンの発明・普及と同じように社会に大きなインパクトをもたらす。
トヨタ自動車の豊田章夫社長は、CES2018 において100年に一度のモビリティの変革に言及されたが、CES2020ではWovenCityという都市レベルでの開発について言及した。

今後は、ユーザー向けサービスに加えて、交通や医療、小売り、行政サービスに至るまで連動していく状態が想像される。この変化は、ICTによるイノベーションよりも、その未来や実現方法を見通すことが難しい。未だ誰も未来の都市の姿やその生活の有り様を知っているプレイヤーはおらず、またこれまでの技術革新の延長線にあるものとも違う発想が必要である。
その中で、これまで多くのイノベーティブなサービスの進化を支え続けてきた、ゼンリンに掛けられる期待は大きい。今後多くのユーザーの未来の生活や、事業者やクリエイターの多様なアイデアを如何に「地図」の上に載せていけるのか。その大いなる未来のビジョンを実現するために、多くのプレイヤーと連携しながら、チャレンジングな事業目標に対して一つ一つ着実に階段を上っていくことが期待される。

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