[プロジェクトストーリー] 3D地図データの利用によって意匠のあり方が変わる。

BIM推進を加速させる あい設計に生じた設計手法の変化とは?

BIMの潮流を捉える道程に不可欠な「3D地図データ」

広島県を拠点とする株式会社あい設計(以下、あい設計)は1979年の創業以来、構造設計を事業の主軸とし、意匠設計、設備設計、工事監理と事業領域を拡張し続けてきた。
3年半ほど前には世の中のBIMの潮流に乗るべく、BIM推進室(現在はBIM統括室)を設置。これを契機に業務におけるBIM関連のソフトウェアの活用が加速。
そこで同社が注目したのがゼンリンの「3D地図データ」であった。
このサービスの活用によって同社の業務はどのように変化し、どのようなメリットが生まれたのか、BIM統括室のキーマン3名に話を聞いていく。

左)プロジェクト企画部 BIM統括室 副室長 藤本 憲生 氏
中央)プロジェクト企画部 BIM統括室 主任 加藤 千晶 氏
右)プロジェクト企画部 BIM統括室長 櫻河内 敏雅 氏

「3D地図データ」が環境シミュレーションのあり方を変えた

創業期は構造設計専業の設計事務所であったあい設計だが、構造の発注者からの意匠の依頼が増加。
意匠のみの依頼や元請としての総合設計の受注も増えてくると、景観や環境など総合的な視点にもとづく設計プロセスが不可欠となっていく。
同時に、構造設計の分野でも既存の顧客などからBIMを用いた検討や作図の依頼が増加し、必然的にBIMの導入が課題となってきた。
設計とBIMの架け橋となる業務を統率するBIM統括室長の櫻河内敏雅氏はこう話す。

「BIMの導入は時代の流れからしても必然でした。そこで本格的にBIMを使っていこうというなかで敷地の周辺データはどうしようという課題にまず行き当たったのです。
その時点ではいろいろなデータを使ってみて、どのようなメリット、デメリットがあるのかを検証していくといったスタンスでした」

以前、設計部に在籍していた藤本憲生氏は現在、BIM統括室の副室長を務める。意匠設計業務とBIM、3Dデータの関係性について藤本氏はもはや切り離せないものであると説明する。

「敷地の周辺環境に対する外観のデザインや、建物の見え方を詳細に検証していく際、周辺施設や起伏のある3Dデータは不可欠です。また、計画を進めていく上で環境性能に対する論理的な説明を求められ、そのために必要なプロセスが環境シミュレーションです。日差しや風の流れなどをシミュレーションする際、以前は断面や立面をもとに簡易的に検討していましたが、複雑な形状の建物や密集市街地などではこうしたシミュレーションを2次元の図面のみで検証するには限界があります。そこで3Dの都市データを活用したBIMデータが必要になってきました。さらに、精密な3Dの都市データをプレゼンテーションの資料などに用いると弊社の意図がよりスピーディに、直感的にクライアントへ伝わることも大きなメリットだと考えていました」

コスト的な側面から「3D地図データ」を検証

そうした状況で着目したのがゼンリンの「3D地図データ」であった。展示会でデモデータを使用したことを機に、まずはトライアルとして従量制の契約で3D地図データを使用。その後徐々に使用データが増え、2022年から定額制プランへの変更を決めた。

「以前はプレゼンテーション資料を作成する際、2Dのデータ、あるいは模型を作るということも多かった。私が今、設計室に戻ったとしても模型での検証を行うことは以前より少なくなると思います。模型を作るには非常に時間が掛かりますし、3D地図データを使った方が周辺施設や土地の起伏なども直感的に分かるので、必然的に社内では3D地図データのニーズが高まっています」(藤本氏)

BIM統括室主任の加藤千晶氏は、このような印象を抱いたとも話す。

「ゼンリンの3D地図データを利用するようになって非常に仕事が効率的になったと実感しています。Lumionを使えば、テクスチャが綺麗に貼り付けられた状態なので非常に明快に建物や環境を見ることができます。ビジュアル資料でクライアントと意思疎通を図る場合、周囲に建物があると俄然、説得力が増すのでやはり3D地図データのニーズは社内で高まっていくと感じています」

また、コスト的な側面から見たゼンリンの「3D地図データ」の印象も語ってくれた。

「データ一枚あたりのコストをどう考えるかというハードルは確かにありました。ただ、弊社としてはBIMを積極的に推進していかなければ時流に乗り遅れるという意識が強かったので、私は3D地図データの本格的な導入を推進すべきだと判断しました。3D地図データはクライアントへの訴求力ももちろんありますが、社内の経営層に対する訴求力もある(笑)。3D地図データを利用した成果品が実際に増えてきたこと、そしてその成果品によって受注した案件が増えてきたことで、社内では定額制のプランに変更してもっとデータを使っていこうという意識が強まっていきました。まだ社員全員がBIMを扱える状態ではないのですが、弊社内でBIMが広く浸透すれば自ずと3D地図データの使用頻度は増えていくでしょう」(櫻河内氏)

「ほとんどの場合、プレゼンテーション時に説明動画が必要となるのですが、以前は外注に出し、当然、相応のコストが掛かっていました。でも3D地図データを利用できるようになって、今では私自身が動画を作ることも多いです。外注でなく私が動画制作を担当すると、設計者と密にコミュニケーションを取りながら制作を進めることができます。ですから設計者のイメージに忠実なものを、しかも短時間で制作することができる。結果として動画にかかるコストは大幅に削減できていると感じています」(加藤氏)

密集する建物が風の流れを変えるという事実

どのようなケースでゼンリンの「3D地図データ」が使われているのかについて聞いていくと、その効果がより鮮明となる。とある企業の事務所設計においてはこのような使用例があった。

「公表された過去の気象データによると、対象の計画地は東から風の吹く土地なのですが、3D地図データを用いて周辺環境を詳細に検証してみると、全く異なる結果が読み取れたのです。土地の周辺には確かに東から風が吹いているのですが、風は周辺の建物にあたって向きを変えます。実際、シミュレーションのデータ上で周辺の建物により風の流れがどの様に変化するかを見ていくと、設計対象の建物には東からではなく西からの風が吹いていることが分かったのです」(藤本氏)

企業事務所案件で、風の流れを3D地図データと熱流体解析ソフトを用いて検証。

建物や道路、河川により風の流れは変化し、対象建物には西側から吹き込むことが確認された。

その結果にもとづき、施設内に心地よい自然風を取り込めるよう、西側に開口部を多く設けるという判断がなされた。
合わせて南側に窓を設ければ西からの風が抜けることもシミュレーションの結果、分かってきた。
3D地図データの利用によってその地域、その場所における様々なシミュレーションが可能となり、論理的に説明可能な設計となっていったのだ。

「ただ美しいというだけではその設計がクライアントに受け入れていただけないケースも少なくありません。またクライアントが公的機関であったりすると、窓や壁面の設計にしてもなんらかの検討結果や論理的な説明がなければなかなか納得してもらうのも難しい。この案件では階段室の上部にトップライトを設けたのですが、これは建物に入ってきた風を上部に抜くためであるという説明ができれば、説得力が増してくる。我々、設計業者に求められる検証や説明力は年々、高度になってきていますしね」(櫻河内氏)

窓の外に見える風景を「3D地図データ」で検証

もうひとつの案件では建物内部から周囲の環境がどのように見えるかを、3D地図データからシミュレーション。港湾施設に隣接する施設であったため、窓から港湾内外の海面や船舶の状況がどう見えるのかを詳細に検証していったという。

「建物内部の執務スペースで、椅子に座った状態で港湾関連施設がどの様に見えるのかをシミュレーションしました。腰壁が視界を遮るようであれば腰壁を少し低く設計すればいい。このような細かいシミュレーションはBIMデータや3D地図データでなければ難しかったでしょう」(櫻河内氏)

このように建物と景観の関係性をシミュレーションする時にも、3D地図データは有効に活用できる。意匠の設計に明快な裏付けが存在することを内外に証明できる点も大きなアドバンテージと言えるだろう。

こちらは学校施設案件の外観・内観3Dモデルデータ。3D地図データを使うことにより、外側だけでなく、内側からの視点でも周辺環境との関係を検討することが可能。

さらに拡がる「3D地図データ」の用途

今回、話を聞いた3人が口を揃えて言うのは、「設計の可能性が広がった」という点。周辺の環境も詳細に検証した上での設計が可能となり、設計者の視野が拡張したという実感である。
最後に、今後ゼンリンの「3D地図データ」に求める要素は何かについて意見を聞いてみる。

「弊社の手掛ける案件には非常に小さな地方都市の設計も少なくありません。なのでデータのカバー範囲がさらに広がると、弊社の活用用途もひろがると感じます。またユーザーごとに設定を保存できる機能があれば、他の区域のデータを利用する際にも以前と同じ設定で書き出すことができ利便性が高まると考えています」(櫻河内氏)

「同じエリアでも、おおまかに周辺情報が取れる軽いデータ、詳細な情報を詰め込んだ重いデータなど、段階的にデータが用意されているとより使いやすいと感じています」(藤本氏)

このようなニーズの高まりを受け、3D地図データの質も年々向上し、用途も広がっている。社会に資するデータを提供するために、ユーザーの声に真摯な姿勢で耳を傾けながら、ゼンリンは今後も進化を続けていく。

【導入事例】3D地図データの活用でプレゼンテーションに説得力が増し、顧客との意思疎通がスピーディに

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