建設業界向け仕様書AI検索ツール「KANLY(カンリー)」

仕様書確認の効率化をAIで実現 ――ゼンリン×ローカスブルーが挑む建設DX

日本の建設現場が深刻な人手不足や高齢化に直面しており、技術継承と生産性の向上は地場ゼネコンにとって極めて重要な課題となっています。
特に、官公庁ごとに異なる膨大な「仕様書」の確認作業は、経験が浅い技術者にとって大きな壁であり、業務の属人化を招く要因のひとつとなっています。
こうした現場に潜む非効率を解消するために設計されたのが、特化型AI検索ツール「KANLY(カンリー)」です。
今回は、本ツールの誕生背景と建設現場の課題をプロダクトで解決する取り組みについて、ローカスブルー株式会社の宮谷聡氏、多久和徳一朗氏、株式会社ゼンリンの八代知真氏、そして実際のユーザーである株式会社田中組の高橋佑介様にお話を伺いました。
ゼンリンとローカスブルーは、2024年4月よりグループ会社としての新たな協業体制をスタートさせています。
AIやクラウド技術と現場実装のノウハウを持つローカスブルーと、地理空間情報をベースに地域インフラの課題解決に取り組むゼンリンが連携することで、建設業界が抱える課題に、より深く、幅広くアプローチできる体制を整えました。
今後、両社がそれぞれの強みを活かしながら、これまで以上に現場のニーズに応えるソリューションの創出が期待されています。

建設業界における仕様書検索の課題を、AI検索ツールKANLYの横断検索・高精度検索・業界用語検索で解決することを示した図

「KANLY」とは
建設現場で必要となる仕様書や基準書を横断検索できる土木業界特化型のAI検索ツールです。
国や自治体ごとに分かれている膨大な資料の中から、必要な情報が記載されたページをすばやく特定し、根拠となる公式文書にもワンクリックでアクセスできます。
キーワード検索だけでなく、質問の文脈や現場独自の言い回し(業界用語)にも柔軟に対応し、現場の情報確認業務を支援します。
サービス紹介サイト:https://kanly.ai/

KANLYの操作画面

複数の資料を一度に横断検索、複数キーワードで絞り込みも可能

ローカスブルー 多久和徳一朗氏、宮谷聡氏、ゼンリン 八代知真氏のインタビュー集合写真

(左から)多久和氏、宮谷氏、八代氏

ローカスブルー株式会社
代表取締役CEO 宮谷 聡 氏
プロダクトマネージャー 多久和 徳一朗 氏
https://locusblue.com

株式会社ゼンリン
プロダクトソリューション事業本部 部長 八代 知真 氏

株式会社田中組
土木部 建設DX推進室 高橋 佑介 様
https://www.tanakagumi.co.jp

※本記事は2026年5月のインタビューをもとに作成しています。

“地図”から“課題解決”へ、進化するゼンリンのビジョン

――地図会社であるゼンリンが、建設土木業をはじめとする地域市場の課題解決に進出する理由を教えてください。

“地図”から“課題解決”へ、ゼンリンのDX戦略について語る八代知真氏
八代氏:

現在のゼンリンは、単に地図という素材を提供する会社から、地理空間情報とその周辺にある様々な情報を組み合わせ、サービスとして届ける会社への変革を進めています。
中長期的な経営計画の中でも「地域市場の課題解決」を重要な柱として掲げており、地域のインフラを支えている地場ゼネコンの皆様の生産性向上をサポートすることは、私たちの重要な取り組みのひとつです。
「KANLY」そのものは直接的な地図データを使用しているわけではありませんが、地域の建設会社が抱える日々の困りごとを解決するための重要なソリューションとして位置づけています。

現場の横に立って見えた、仕様書確認に潜む大きな負担

――「KANLY」の開発に着手したきっかけについて教えてください。

宮谷氏:

当社は2019年の創業以来、「ScanX※1 というクラウド型の点群データ処理ソフトをゼネコンや測量会社のお客様向けに提供してきました。
このサービスを通じて多くの建設・土木業界の方々と接点を持つ中で、現場の皆様が施工の前後における膨大な書類作成や確認作業に多大な時間を費やしているという共通の課題に気づきました。
特に公共工事においては、厳格なルールに基づく書類の確認が必須であり、その大きな負担を解決したいと考えたことが、「KANLY」開発の始まりです。

――公共工事における「仕様書」とは、どのような書類なのでしょうか。

宮谷氏:

国や都道府県、市区町村などの発注官公庁ごとに作成されている、工事を進める上での膨大なルールブックです。1冊のボリュームが1,000ページを超えることも珍しくありません。
さらに、これらの書類は不定期に内容が更新されていきます。
国が出している共通の基準だけでなく、自治体ごとに独自のルールが細かく定められているため、担当する現場が変わるたびに異なる仕様書を読み解く必要があります。

――現場の技術者の方々は、この仕様書に関して具体的にどのような苦労を抱えていたのですか。

仕様書作成と更新業務の負担について説明する宮谷聡氏(ローカスブルー)
宮谷氏:

私たちは実際の現場に足を運び、現場監督の皆様の後ろについて業務の様子を徹底的に観察しました。
そこで目にしたのは、分厚いPDFファイルをパソコンで開き、キーワード検索でヒットした数百件もの候補を上から1つずつ目視でスクロールしながら確認している姿でした。
見つけたい情報にたどり着くまでに、現場の技術者が何分も作業を中断して探しているような状況が至る所で起きていたのです。
現場の皆様にとってはそれが日常の作業になっていましたが、客観的に見ると非常に大きなタイムロスに繋がっていると感じました。
こうした現場で言語化しきれていなかった負担は、40社以上へのヒアリングを重ねる中でより明確になっていきました。
この負担を、デジタル技術で解消したいと考えたのです。

公式な根拠にすぐ戻れる、建設現場向けAI検索の強み

――一般的なWeb検索や汎用的な生成AIツールとは、どのような部分で差別化されているのでしょうか。

宮谷氏:

仕様書や基準書はWeb上で公開されているものも多く、一般的なWeb検索やPDF内検索でも情報を探すこと自体はできます。また、ChatGPTなどの汎用AIツールに資料を読み込ませて質問する方法もあります。
しかし、寸法や数値の間違いが手戻りや施工不良につながりかねない建設現場では、単に情報が見つかる、あるいは回答らしきものが得られるだけでは不十分です。
生成AIが出力する「もっともらしい嘘」は許容されません。

汎用AIツールは非常に便利ですが、回答の根拠を明確に示すことが難しいため、実際の業務でそのまま信用するにはリスクが伴います。「KANLY」は生成された回答の根拠となった公式な仕様書の原本ページへ、ワンクリックで直接ジャンプしてエビデンスを確認できる設計にこだわりました。この確実性が、他のツールとの最大の違いとなっています。

現場で使われている言葉やAIチャット機能について説明する多久和徳一朗氏(ローカスブルー)
多久和氏:

また、現場で使われている言葉に対応している点も、一般的な検索エンジンには真似できない独自の強みです。
例えば、建設現場ではU字型の側溝のことを日常的に「トラフ」と呼びますが、公式な仕様書の文面では使われません。
しかし「KANLY」の生成AIチャットは「トラフ」という言葉が仕様書上の「側溝」を指していることを正しく解釈し、該当する仕様書のページを瞬時に提示することができます。
専門知識の少ない若手技術者であっても、
現場で飛び交う言葉のままで正しいルールに辿り着ける
のは、このツールならではの価値です。

Kanlyはキーワード検索やAIチャットにより仕様書・基準書を検索し、回答だけでなく根拠となる該当ページや原本PDFまで確認できる

現場の言葉で質問しても、必要と思われる情報をまとめて回答

――ユーザー側の意見もお伺いしたいと思います。株式会社田中組の高橋さんはどのような背景から「KANLY」の導入を検討し、決定に至ったのでしょうか。

KANLY導入による現場の効率化や活用効果について説明する高橋雄介様(株式会社田中組)

株式会社田中組 高橋 雄介様

高橋氏:

私自身、実務の中で大量の仕様書から必要な情報を検索することに、毎回とても苦労していました。
分厚い書類を前にして時間を費やす泥臭い作業をなんとか効率化したいと考え、初期の頃には汎用的な生成AIを個人的に試したこともあります。
しかし、当時は業務に耐えうるような精度の結果が得られず、諦めかけていた時に出会ったのが「KANLY」でした。
キーワードを入れるだけで、複数の仕様書から見たいページを瞬時に横断検索できる機能に触れた時は、まさに私たちの課題を解決してくれるサービスだと感じました

属人化を減らし、若手もベテランも使える業務支援へ

――現場で誰もが迷わず使えるようにするための、画面設計や開発における試行錯誤について教えてください。

宮谷氏:

現場で実際に操作する40代から50代の現場監督の方々が、マニュアルを読まなくても直感的に使えるシンプルな画面設計を最優先に掲げました。
ボタンの数を最小限に絞り込み、誰もが使い慣れているGoogle検索に見た目を寄せています。

多久和氏:

開発のプロセスにおいては、現場に必要だと思われる様々な機能を一度は画面上に配置して、実際に検証を繰り返しました。
しかし、あれもこれもと機能を追加していくと、シンプルな検索ツールとしての操作性が損なわれ、ユーザーが迷ってしまう原因になります。
そのため、少しでもコンセプトに合わないと判断したものは削除する決断を重ねてきました。
試行錯誤を重ねて機能を削ぎ落とすことで、現在の洗練された形を導き出しています。

――「KANLY」を現場に導入してみてどのようなメリットを実感していますか。

高橋氏:

以前の建設業界では、仕様書の内容をいかに暗記しているかが技術者の力量とされ、ひとつのステータスのようになっていました。
しかし、本当に重要なのは情報をすべて覚えることではなく、必要な時に正しい情報へたどり着ける仕組みや知識の継承です。
「KANLY」を使えば経験の浅い若手社員であっても、確実なソースに基づいてすぐに正しいルールを確認することができます。
また、ベテランの技術者にとっても、自分の記憶が正しいかどうかを再確認する用途で役立つ場面は多いでしょう。
実務に直結するエビデンス重視の機能には本当に助けられており、日々の業務を進める上で心強いツールになっています。

――実務をさらに効率化するために、今後はどのようなアップデートを予定していますか。

宮谷氏:

建設業界の実務書類の作成においては、WordよりもExcelが圧倒的に多用されているという現場のリアルな現状があります。
今後は「KANLY」で検索して得られた仕様書の表データや図面などをExcelへ出力したり、スムーズにコピペしたりできるような連携機能を順次強化していく予定です。
情報を調べるというステップから、実際の書類を作るという次の段階へ、より快適につなげられるようにブラッシュアップしていきます。

――ローカスブルーとして、将来的にはどのような取り組みを展開していきたいですか。

宮谷氏:

「KANLY」の開発においては、現場の声をもとにさまざまな機能を検討してきました。
中には好評な機能もありましたが、検索ツールという軸から外れるものもあったため、あえて機能を絞り込んできた経緯があります。
今後も現場に足を運びながら課題を明らかにし、別立てのプロダクトとして展開する可能性も含め、検討を続けていきます

高橋氏:

実際に「KANLY」を使う立場として、今後も現場の手間を軽減してくれる取り組みが進むことを期待しています
建設現場には情報を探す、整理する、書類を作ると言った細かい作業が数多くあります。
それらの負担が一つひとつ軽くなれば、現場全体の生産性も上がっていくはずです。
ローカスブルーさんには、これからも私たちの業界の常識を覆すような、インパクトのあるプロダクトをどんどん生み出し続けてほしいです

ゼンリンとローカスブルーが目指す、地域の建設現場に寄り添うDX

――ローカスブルーとしては、ゼンリングループに加わったことでどのようなメリットを感じていますか。

宮谷氏:

私たちのような規模のスタートアップでは、自社の限られた営業リソースだけで日本全国の地方にいる建設会社へアプローチすることは物理的に困難でした。
しかし、全国各地の地域市場と接点を持つゼンリンの基盤や、長年培ってきた信頼を生かすことで、地域の建設会社へアプローチしやすくなりました。
これまでローカスブルー単体では届けきれなかった方々へプロダクトを迅速に届けられるようになったことは、グループに参画した大きなメリットのひとつであると感じています。

――この2社がタッグを組むことによる相乗効果と、今後の建築土木業への構想を教えてください。

八代氏:

ローカスブルーの最大の強みは、現場に直接足を運んで顧客の悩みを徹底的に解き明かす「業務と課題に対する解像度の高さ」です。
さらに、スタートアップならではのスピード感と機動力を備えています。
今のゼンリンだけでは届かない深さまで現場に入り込み、地場ゼネコンの皆様と双方向で実証実験(POC)を繰り返しながら作り上げるプロダクトを通じ、地域の建設現場が抱える課題を解決していきたいと考えています。

今後も、田中組様のように地域のインフラを支える建設会社の皆様に寄り添い、
現場で本当に使えるサービスを生み出していきたい
と考えています。
ローカスブルーの現場解像度とスピード感、ゼンリンが地域で培ってきた接点や信頼を掛け合わせることで、地域の建設現場が抱える課題解決につながるプロダクトをお届けすることが私たちの目標です。
ゼンリンとローカスブルーが生み出すこれからのサービスにぜひご期待ください。

ローカスブルーの現場解像度と開発力、ゼンリンが地域で培ってきた接点や信頼を掛け合わせ、地域の建設会社が抱える課題解決を目指す

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