ジオ展2025登壇レポート――EV分野における企業共創の取り組みを紹介

2025年7月2日、大手町三井ホール(東京都千代田区)にて、地図・位置情報に関する企業・団体が出展するイベント「ジオ展2025」(共同運営:マップボックス・ジャパン合同会社、株式会社MIERUNE、アドソル日進株式会社)が開催されました。

今年で10回目を迎えるジオ展は、地図や位置情報など地理空間情報に関連したビジネスを手掛ける企業や大学の研究室、NPOや大学・社会人のサークルなど幅広い団体が集うイベントです。
会場では、展示ブースやプレゼンテーションステージにて、各社の製品やサービス、活動内容が紹介されました。

ゼンリンは、法人向け地図・位置情報開発ツール「ZENRIN Maps API」と、次世代モビリティ・脱炭素社会に貢献する「EVソリューション」を中心にブース出展いたしました。

また、プレゼンテーションステージでは、弊社モビリティソリューション事業本部の濁川が「EV分野における企業協創事例」をテーマに登壇。
カーボンニュートラルやEV普及の実現を目指し、「企業共創」によるさまざまな企業様とのソリューション開発の実績をご紹介するとともに、さらなる課題解決に向け来場者のみなさまへ共創連携を呼びかけました。

弊社はこれまで77年にわたり、全都道府県を網羅した高精度・高鮮度の地図情報を整備してまいりました。そして現在、より多様な社会課題や地域課題に対応するため、地理空間情報サービス会社として進化を続け、さまざまなステークホルダーのアセットを掛け合わせる「共創」活動に力を入れて取り組んでおります。

今回は、その活動の一部をご紹介したプレゼンテーションの様子をお届けします。

日本のEVシフトと充電インフラの現状と多面化する課題

濁川:現在の日本のEV販売比率は約1%と、世界平均の15%を大きく下回っているのが現状ですが、政府は「2035年までに乗用車販売の100%電動車化」という目標を掲げており、EVシフトは進展するものとみられています。

また、充電インフラについては、2030年までに30万口まで増やすという政府目標が設定されています。
2025年3月時点では約3.6万口(※)となっており、今後も整備拡大が見込まれています
※注釈)基礎充電を含まない公共充電のみの数字です。

EVシフトや充電インフラの進展に伴い、ステークホルダーが直面する課題も顕在化しています。
EVユーザーにとっては「電欠への不安」や「充電待ちのストレス」。
充電サービス事業者にとっては「設置場所の最適化」や「事業採算性の確保」、さらには高出力充電器の普及に伴う「電力系統への影響」や「必要発電量の試算」などのエネルギーマネジメントに関わる課題も見られます。
このように、EVと充電インフラを取り巻く課題は、多面化しているのです。
今後のEV市場の拡大に伴い、こうした課題はより深刻化することが予想されるでしょう。

こうしたなか、ゼンリンはEVメーカーや充電インフラ事業者とともに、こうしたさまざまな課題の解決に向けた「企業共創」に取り組んでいます
今回のプレゼンテーションでは、そうした「企業共創」の取り組みから4つの事例を紹介します。

充電スタンドデータ連携による情報の一括提供

1つ目の事例は、各充電サービス事業者様との充電スタンドデータ連携です。

現在、充電サービスの利用や充電スタンドの情報確認には各充電サービス事業者が各社ごとに自社アプリなどで提供しています。
そのため、EVユーザーはそれぞれのアプリをインストールして使い分ける必要があり、大きな負担となっています。

この課題を解決するため、ゼンリンでは各充電サービス事業者様とデータ連携を進めています。リアルタイムの満空情報を含む充電スタンドデータを集約し、APIとして自動車メーカーやナビメーカーに配信しています。その結果、EVユーザーは1つのアプリで全国の充電スタンド情報を検索、確認できる環境を実現しています。

長年にわたり自動車メーカーやナビメーカーに地図データを提供してきた弊社だからこそ、各社の情報を集約し、標準化された形で配信することが可能です。
ゼンリンは、EVユーザーのストレスフリーな充電体験と、充電サービス事業者様の利用機会拡大の両立に貢献する「ハブ」としての役割を担っています。

EV充電スタンド満空情報配信イメージ 満車や空車情報がリアルタイムで分かる

電力系統への影響も考慮したEVチャージ需要マップ

2つ目の事例は「EVチャージ需要マップ」の開発です。
こちらはパナソニックホールディングス様との共創による「カーボンニュートラル実現への貢献を目指したエネルギーマネジメント機能の共同開発」の一環で実現しました。
このマップの特徴は、利用需要だけでなく、電力系統への影響なども考慮した「立地優位性」も組み込んだ点にあります。

パナソニック様の知見をお借りし、交通量や夜間人口、ガソリンスタンド数といった需要指標に加え、変電所、大型施設、既存充電スタンドの位置から試算した立地優位性の指標を組み合わせて開発。

近年、充電スタンドは高出力化しています。
高出力充電スタンドは、電力系統を考慮した場所に設置されることが望ましいと考えています。ゼンリンが保有する地点情報(POI)データと、パナソニック様の技術的知見を融合することで、充電サービス事業者が収益性と実現可能性の両面から、最適な充電スタンドの設置場所を検討できるツールとして実現しました。

EVチャージ需要マップの共同開発 利用が多く見込める場所と、電力系統への影響が小さい場所、双方を加味したエリアを特定 建物情報や施設情報を重畳させることで、充電スタンドの設置場所の詳細検討が可能

関連ページ EVチャージ需要マップ

充電スタンド位置と道路勾配のデータから、電欠回避できるルートをナビ

3つ目の事例は、パイオニア様との共創によるEVソリューションの提供です。
パイオニア様とは「脱炭素社会の形成に向けたEVソリューションに関するパートナーシップ契約」を締結しており、現在までに3つのサービスを展開しています。

1つ目は「EV向けクラウドナビゲーションサービス」です。
ゼンリンの充電スタンド位置データと道路勾配情報を活用し、電欠を回避する最適なルート案内を実現しています。
とくに、EVは道路勾配情報を考慮したルート探索が重要です。
上り坂では電力消費が多い一方、下り坂では回生ブレーキが作動することによりバッテリーに充電される機能が多くのEVに採用されています。
そのため、ゼンリンが持つ道路勾配データをもとにした消費電力計算が電欠の回避には必要不可欠となります。

2つ目は「カーボンニュートラルWeb APIサービス」では、EV関連サービス事業者向けに、充電スタンド検索、航続可能距離予測、ルート探索、CO2排出量計算などの機能をAPIで提供します。

3つ目は「EV導入シミュレーション」は、企業が社用車のEV化を検討する際に、コストやCO2削減効果、充電頻度・方法などの利便性を総合的にシミュレーションできるサービスです。運転日報や走行データも活用し、最適な充放電環境の整備やエネルギーマネジメントに貢献します。

これらのサービスは、パイオニアのモビリティAIプラットフォーム「Piomatix」とゼンリンの空間情報データベースを組み合わせることで、EVユーザーと事業者双方に価値を提供するトータルソリューションです。

EVに特化したソリューション技術基盤の構築 EVソリューション・サービスの提供

実際の走行データをもとにした行動分析レポート

4つ目の事例は、「EV行動分析レポート」です。
これは三菱自動車工業様と、ゼンリングループ会社であるゼンリンデータコムとの3社共創により実現しました。

レポートでは、三菱自動車工業様が保有するPHEVとBEVから取得した実際の走行データを匿名化して活用。
ゼンリングループが持つ位置情報解析プラットフォームと組み合わせることで走行分析データと目的地分析データの2つのデータを可視化します。

走行分析データでは、走行地点とバッテリー残量(SOC)の関係を地図上に可視化。
例えば、高速道路でバッテリー残量が少ない状態で走行している車両が多いエリアが判明すれば、その入口付近への充電スタンド設置が効果的であることが分かります。

一方、目的地分析データでは、EVが多く駐車するエリアを可視化することで充電需要を見出し、最適な充電スタンドの設置場所が検討できます。

実走行データに基づく分析により、机上の計算では見えてこない実態を把握
自治体様や充電サービス事業者様のより効果的な充電インフラ整備計画の立案に貢献します。

EV行動分析レポートのイメージ

関連ページ EV行動分析レポート

企業や自治体との共創を通じた社会課題解決を目指したい

濁川はプレゼンテーションの締めくくりとして「社会課題の解決を目指すなかで、ゼンリン単独のアセットだけでは対応が難しい局面が増えています。他社様のアセットと組み合わせることで、より大きなシナジーが生まれ、新しい価値が創出できます。これはEV分野に限らず他の分野でも同様です。共創を通じて、さらなる価値提供に貢献したいと考えています。」と語りました。

ジオ展2025は、大盛況のうちに幕を閉じました。
今回ご紹介した4つの事例は、いずれもゼンリン単独では実現できなかった取り組みです。
各分野のリーディングカンパニーと共創することで、それぞれの強みを活かした新たな価値を生み出すことができました。前述の通り、カーボンニュートラルの実現に向け、EVならびにEVインフラ整備の需要はますます高まることが予想されます。多様化・複雑化する課題に対応するため、今後もゼンリンはさまざまなステークホルダーとともに解決策を提案していく所存です。

イベントを振り返り、濁川は以下のようにコメントしました。
「ジオ展2025は、地図や位置情報の最新技術を軸に、企業はもちろん大学研究室、NPO、趣味サークルまで多彩な団体が集う“地図好きの熱気を感じる”熱いイベントでした。会場には地図へのこだわりや探究心が満ちあふれ、他の展示会とは一線を画す独特の雰囲気に、思わず『地図ってこんなに人を惹きつけるのか!』と驚かされました。当社ブースにも多くの方が足を運んでくださり、活発な意見交換や新たな出会いに恵まれました。こうした刺激的な場で当社の取り組みを発信できたことは、非常に大きな収穫となりました。」

今後もゼンリンは、EV領域だけに限らず、さまざまな分野で企業や自治体との共創を通じた社会課題の解決に積極的に取り組んでまいります。

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